6月20日、NEXCO中日本は、建設中の新東名高速道路での自動運転化の実証実験をメディアに初公開しました。政府により閣議決定された「骨太の方針2024」でも、自動運転の社会実装に強い意欲が見て取れますが、そのようななか、2024年問題に直結する、高速道路での物流の自動運転活用に期待が高まっています。導入実現に向けた各方面の最新事情を紹介します。
高速道路での自動運転、実現に向けた最終調整へ…最新事情を追う NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。写真は実証用のデモ車両。筆者撮影

 ※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

NEXCO中日本、国のプロジェクトと連携した大規模実証を実施

近未来の高速道路はどうなるのか?

 

そのような視点で最新技術を実感できる貴重な機会として、新東名高速道路の建設中区間を使った、V2I (ヴィイツーアイ:ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー)の最新技術について技術関係者から詳しい話を聞くことができました。

 

V2Iとは、「高速道路と自動運転車との路車協調」。路車協調とは、道路側にあるカメラやセンサーと、自動車と通信によって情報伝達する仕組みのことです。

 

新東名高速は、神奈川県の「海老名南ジャンクション」から愛知県の「豊田東ジャンクション」までの全長253kmを指しますが、このうち神奈川県の新秦野と静岡県の新御殿場の間、約25kmが未開通です。

 

 

その理由について、道路事業者のNEXCO中日本は「途中の高松トンネルでの工事に時間を要しているため」と説明しています。地盤が脆弱な部分があるなど、慎重に工事を進める必要があり、現時点では新東名高速が全面開通するのは2027年度を目指している状況です。

 

そうした建設の遅れを逆手にとるような、大胆な発想の実証実験をNEXCO中日本が決断。

 

すでにほぼ完成している未開通部分で、国のプロジェクトと連携した大規模実証にGOをかけたのです。

 

NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。実証区間のパネル。筆者撮影
NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。実証区間のパネル。筆者撮影

自動運転限定のサービスではない「V2I」の技術

実証実験の期間は、5月13日から7月末頃までの約3ヵ月間。

 

今回は、富士通、NEC、ソフトバンク、ホンダなどが、合計10のユースケースを想定して行っていますが、ここで得られた知見は、今年度中に、国のデジタルライフライン全国総合整備計画のアーリーハーベストプロジェクトで具体化されます。

 

新東名高速の駿河湾沼津SAから浜松SA間で行われる、自動運転トラック用の「自動運転支援道」で活用される見込みです。

 

こうしたV2Iの技術は、決して自動運転に限定したサービスではありません。

 

いま世の中で走っている乗用車、商用車、バス、トラックのドライバーにとっても、安心安全な運転をサポートしてくれる強い見方になるでしょう。

 

どういうことなのか、順序立てて見ていきます。

 

まずは、自分で車を運転しているシーンを思い浮かべてください。 

 

運転中に周囲の状況を知る方法として、主体となるのは「目視」です。

 

さらに最近の車には、前方や側面、後方に対し、ミリ波レーダーやカメラ、超音波センサーなど、車載装置による先進安全支援システムが標準装備されるようになってきました。

 

ただし、そうした車載センサーが検知できるのは、自車の周辺の数mから、遠くても200m程度しかありません。それが高速道路となれば、 車載センサーによる感知だけでは前方の危険回避は容易ではないでしょう。

 

それが、カーナビゲーションやETC2.0、道路側にあるデジタル道路表示によって、この先の渋滞発生状況を知ることが可能になるほか、故障車や落下物などに関する情報を得ることも可能になるのです。

 

NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。構成機器を図示したパネル。筆者撮影
NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。構成機器を図示したパネル。筆者撮影

さまざまなテクノロジーを駆使した「先読み情報」で、ドライバーの安全を守れ

しかし、それらの情報は警察の権限で発表する「規制情報」や、道路管理者がカメラやパトロールカーなどで現場の状況を確認した上での「確定情報」であり、即時性が課題となります。

 

高速道路を走行しているドライバーにとっては、こうした「規制情報」や「確定情報」と、自車の車載センサーや目視との中間にある、情報としては未確定ながら危険回避のためには知るべき情報が必要だといえます。

 

これを、「先読み情報」と呼びます。

 

とくに、夜間や雨などで気象状況が悪い場合には、「先読み情報」の重要度は高まります。

 

こうした「先読み情報」を得るための仕組みが、V2Iなのです。

 

では、V2Iでは具体的にどのような技術の実用化が考えられるのでしょうか?

 

例えば、高速道路上で事故が発生した場合、道路事業者は道路側にあるカメラ(CCTV:クローズド・サーキット・テレビジョン・カメラ)と交通量計測設備(トラフィックカウンター)により情報を把握します。

 

これを、人工知能を使った画像解析技術によって事故の状況を抽出し、道路完成センターを通じて、道路側にある通信設備から後続車に注意喚起と危険回避を呼びかける仕組みです。

 

人がすべての状況を確認してから指示を出すまでにかかる時間と比べて、後続車への通知までの時間をかなり短縮することが可能です。

 

このほか、トンネルの先の気象情報として、風雨を計測してその情報を後続車に短時間で伝えることで、横風による影響などを防ぐ効果が高まることが期待されます。

 

ただし、V2Iでは周波数帯域が違うさまざまな手法があるため、国が基準化や標準化を急ぐ必要もあります。

 

それに伴い、車載カーナビゲーションやETC2.0の仕様変更などが行われるでしょう。

 

さらには、スマートフォンに対して、緊急地震速報のような注意喚起を発する仕組みも考えられます。

 

こうした高速道路でのV2Iの新技術の可能性を知ることは、見方を変えると、「先読み情報」がない状態で高速道路を走行している現状は、ドライバーにとってリスク高い状態だともいえるでしょう。

 

「先読み情報」の有無によらず、特に高速道路では安全運転を心がけることが重要であると改めて感じます。

 

NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。新東名の未開通部、新御殿場IC近辺の実証実験区間。筆者撮影
NEXCO中日本による、「高速道路と自動運転車との路車協調」の取材会にて。新東名の未開通部、新御殿場IC近辺の実証実験区間。筆者撮影

 

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<著者>

桃田 健史

 

自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。