“アフターコロナ”でクリニックに起こっている「2つ」の変化

少子高齢化、人材不足、社会保障費の増大……医療業界を取り巻く環境は近年、大きく様変わりしています。2020年には「新型コロナウイルス感染症」が世界的に大流行したことで、医師の皆様もクリニック経営において大きな変革を余儀なくされたのではないでしょうか。

こうしたなか、 “アフターコロナ”といえる現在で、2つの大きな変化がみられます。

1.新規開業件数の増加

変化としてはまず、2020年~2021年のコロナ禍に大きく減少した新規開業件数が、2022年以降に大幅に回復していることが挙げられます。つまり、相対的に競合クリニックが増えているということです。

2.受療行動の目的

もうひとつが、患者の受療行動です。緊急事態宣言時にいわゆる「受診控え」が起こってから、新型コロナ感染症が5類に移行して再度患者が増えてくるようになるあいだに、世の中にはコロナ禍ならではの便利なサービスがあふれ返りました。

アフターコロナのいま、新たに受診する患者はそういった便利なサービスに慣れており、医療機関にも“他業界と同等のサービス”を求めるようになっています。

つまり、コロナの“前”と“後”では明らかに患者がクリニックを選ぶ目線が変化しており、かつクリニック数も増えているため「目移りしやすい」時代になっているということです。

「選ばれる」クリニックと「避けられる」クリニックの違い

では、このようにクリニック選びにおいて目移りしやすい時代になっている今、「避けられてしまうクリニック」にはどのような特徴があるのでしょうか。

これは端的にいえば、“昔から変わっていない”クリニックです。便利なシステムの導入もせず、1時間以上の待ち時間は当たり前……こうしたクリニックは、いうまでもなく時代の変化に取り残されていくでしょう。

では、WEB予約やWEB問診といった新しいシステムを取り入れ、待ち時間は短く、医師はにこやか……というクリニックであれば、「選ばれるクリニック」になれるのでしょうか? 実は、ここまで条件がそろっていても“選択肢のなかに入った”というだけで、スタートラインにしか立てていないというのが実際のところです。

コロナ禍以降に新規開業したクリニックにおいては、こうした患者の不満解消への取り組みはもはや“当たり前”の水準となってきています。

選ばれるクリニックになるために必要な「+α」

地域住民に選ばれるクリニックになるためには、上記の水準に「+α」が必要です。+αとは、一言でいうと「わかりやすさ」です。

これだけ情報収集が容易になった現代においても、医療は「情報の非対称性」が大きい分野です。患者は自身の体調不良や困りごとに不安を抱えて受診するわけですが、医療機関に求めているものは「正解」ではなく「解決」です。

たとえば、医師が診察時にいくら“正しい診断”や“正しい処方”をしたとしても、患者本人が「理解」して「納得」していなければ、不安は解消されません。しかし、患者に理解・納得してもらうためには、説明等に多くの時間を要します。

患者にわかりやすい医療を提供するにはどうすればいいのか……。そこでおすすめしたいのが、「医師でなくてもできる仕事は委譲する」ということです。

具体的には、「事実を聞く問診」「事実の説明」「電子カルテへの入力」などが挙げられます。これらは、医師が行ったほうがたしかに質は高くなるかも知れません。しかし、限られた時間のなか、すべてを理想的な水準で行うことは現実的に難しいといえます。

したがって、こうした業務は積極的にスタッフに委譲し、病気や検査の説明には院内サイネージや紙媒体を用いることで、短時間でも十分な質を担保し、患者の理解度や納得感を高めることが可能となります。

クリニックを「サービス業」として捉える

本記事の冒頭で、現在のクリニックには“サービス慣れ”した患者が増えていると述べました。コロナ禍を境に、医療機関はいままでよりも「サービス業」の側面が強くなっていることを感じます。

これをポジティブに捉えると、選ばれるクリニックになるためにサービス業から学べるポイントが多くあるということです。

そこで、ここでは「サービスマーケティング」という考え方を紹介します。

一般的に「マーケティング」というと「企業⇔顧客間」で行われるものというイメージがあるかもしれませんが、サービス業では

①企業⇔顧客

②企業⇔従業員(インターナルマーケティング)

③従業員⇔顧客(インタラクティブマーケティング)

という合計3種類がある、と考えます。

ここでのポイントは「顧客満足を高めるためには、従業員満足を高める必要がある」ということです。

先述した「医師の業務の一部をスタッフに委譲する」という対策に対して、実際には「そうはいっても簡単には任せられない」と考える医師も少なくないでしょう。筆者もよく「スタッフの対応が悪く、Google等に悪い口コミが入る」「優秀なスタッフが来てくれない」といった悩みを耳にします。

しかし、ここでぜひサービス業の考え方を取り入れ、「スタッフが悪い」と結論づける前に、まずは「自院の従業員満足度は高いか?」「優秀な人が来てくれるような職場環境か?」という点を振り返ってみてはいかがでしょうか。

広い意味での「人材投資」が、地域に喜ばれるクリニックになる

これからの時代、地域住民に選ばれるクリニックとなるためには、これまで以上に働くスタッフが重要な役割を果たすといえます。

スタッフが活躍するためには、「働く環境」を整えることが重要です。最近では10名~15名規模でも、評価制度や評価に連動した昇格・賃金制度などを取り入れるクリニックが増えてきました。

こうしたクリニックでは、院長と理想を共有し高いやりがいを持ったスタッフが働くことで、結果として患者にいいサービスを提供でき、地域住民に選ばれるクリニックとなっています。

ぜひ、この機会に広い意味での「人材への投資」を行っていただければと思います。

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著者:川本浩史
【株式会社船井総合研究所】インダストリー統括本部メディカル支援本部
医療支援部医療グループ シニアコンサルタント

提供:© Medical LIVES / シャープファイナンス