「老後2,000万円問題」という言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。しかしながら、実際には老後を乗り切るのに“2,000万円では足りない時代”がすぐそこまで迫っていると、投資の学び舎「トウシナビ」の代表を務めるFPの櫻井かすみ氏はいいます。そこで本記事では、櫻井氏による著書『投資への不安や抵抗が面白いほど消える本』(Gakken)から一部抜粋し、2,000万円あっても老後の生活費が不足してしまう原因と、老後に向けた資産形成のコツについて解説します。
100万円が「20年後」には“67万円”程度の価値になる!? 令和の老後は「2,000万円」貯めてもまったく安心できないワケ
老後は2,000万円だと不足する2大理由
「老後2,000万円問題」という言葉は耳にされたことがあるでしょう。しかし、です。老後はそもそも、2,000万円では足りません!!
と、その前に改めて「老後2,000万円問題」を、おさらいしておきましょう。これは2019年に、金融庁の報告書によって発表されたもの。高齢夫婦無職世帯の実収入は実支出と比べ、月5.5万円程度少ないという内容です。「毎月約5.5万円が30年続いたとすると約2,000万円不足するよね」という計算で、この2,000万円という額は割り出されています。
実はこの計算方法に、大きな落とし穴があるのはご存知でしょうか? それは次の2つが前提にあることです。どちらも非現実的だと言わざるを得ません。
①月あたりの支出が約20万円前後
②90歳になるまで夫婦ともに健康である
「①月あたりの支出が約20万円前後」から見ていきましょう。
2022年以降、日本は30年以上続いていたデフレに終わりを告げ、世界的にもインフレが進みました。そして、我々の日常を取り囲む物やサービス価格が、急激に上昇しました。
消費者物価指数というものがあるのですが、以前よりどの程度価格が変化したのかを示すものとなります。比較対象となる時期の価格を100とし、比較対象の時期よりも価格が増えればこの数値も増えます。
それで日本の消費者物価指数ですが、2022年末に41年ぶりに上昇を記録し、対前年比4%となりました。消費者物価指数は複数の商品を対象としているので、個別に見ていくと、日用品や食品に至っては10%や15%の値上げが行なわれたりしています。
今後もこのようなスピードで物価上昇が加速すると想定して、将来に備えたほうがいいでしょう。一方で老後2,000万円問題では、老後の生活費を月約20万円で計算しておりますが、インフレで5年後や10年後は2,000万円以上が必要になってくると予測されているのです。
「②90歳になるまで夫婦ともに健康である」はどうでしょうか。
内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)」によると、令和元年における男性の平均寿命は男性が81.41歳/女性が87.45歳ですが、健康寿命は男性が72.68歳/女性が75. 38 歳。健康寿命とは、介護を受けずに自立した生活ができる生存期間を指します。となると、90歳になるまで夫婦ともに健康というのは、考えにくいのです。
健康寿命到来の後は、要介護となる可能性が高くなることから、ずっと健康なのに比べると、収入に対する支出はもっとかかってくる可能性が高いといえないでしょうか。