退職金は長い老後生活を支える大きな柱です。定年が近づけば、退職金をどう使うかを考えながら計画を立てたりもするでしょう。しかし、そんな退職金をもらえないという事態が突然発生したら、どうしますか? 本記事では、FP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が定年まで2年というタイミングで退職金を失った高橋さんの事例をもとに、なぜそんなことが起きたのか、どうすれば悲劇を回避できたのか、詳しく解説します。
58歳会社員、突然の会社倒産で退職金1,500万円が消えた…仕事探しとローン返済に追われ「ちゃんと確認しておけば」と大後悔のワケ【FPが解説】
どうすれば退職金を失わずにすんだのか?
今回、高橋さんが勤めていた会社が提案された「報酬を下げて退職金で代わりに積み立てる」という方法は、税金や社会保険料の負担を抑えることができます。個人の資産を上手につくるために、税制が優遇された退職金を活用するのは有効な手段の一つです。
しかし、会社が倒産した場合には、しっかり規程が定めてあっても全額が支払われない場合もありますし、規程が無いと給与を減額して積み立てていたとしても、倒産したときなどには支払ってもらうことは難しくなるものです。
社長が自分の退職金を準備するのであれば、自己責任と理解したうえで上手に活用すれば良いのですが、社員の立場であれば、しっかり退職金規程があることを確認してから同意するべきだったといえます。
また、中小企業であれば「中小企業退職金共済」や「確定拠出年金」の制度を利用することで、会社の資産とは切り分けられて積立することができ、会社が倒産してしまった場合でも社員の退職金や年金資産を守ることができます。
社員の立場でそういった制度の情報を得るのはなかなか難しく、実際には会社側の判断によるものが大きいところですが、こういった確実性の高い制度を利用する方が望ましいと言えます。
資産形成に有利な制度でもメリット・デメリットをきちんと確認すること
今回ご紹介した事例は、大企業であればまず起こりえないであろう問題です。しかし、規模が小さく、会社のルールも社長と社員の合意で柔軟に変えることができる中小企業においては、こういった問題が発生することもあり得ます。
有利な制度を上手に活用することで、会社にとっても自分(社員)にとってもメリットになる場合もあるのは確かです。こうした柔軟性の高さは中小企業ならではのメリットとも言えるのですが、もしものときに自分の資産がどうなるかを知っておくなど、デメリット面もしっかり確認の上で利用することが必要です。
退職金は老後の生活設計の柱の一つになる大切なものです。「退職金のことはよくわからない」という方も多いですが、退職金の制度がある場合には退職金規程が存在しているはずです。いつ、いくらぐらい受け取ることができるものなのか。また、もしも会社が万が一倒産してしまった場合には退職金はどうなるのか、ご自身が将来受け取る権利があるのですから、しっかり制度を確認しておきましょう。
それを踏まえ、老後は毎月どの程度の支出が見込まれ、年金の収入はどの程度あり、退職金などを含め資産をどう運用して取り崩していくのか、総合的な生活設計を考えることが大切です。
小川 洋平
FP相談ネット