当然ですが、生きていくうえで「住まい」は必要不可欠です。しかし70歳以上の高齢者はその「住まい」を確保する難易度が格段にあがると、司法書士の太田垣 章子氏はいいます。いったいなぜなのでしょうか。『死に方のダンドリ』(ポプラ新書)より、詳しくみていきましょう。
内覧希望のメールを無視!?…家主や不動産会社のホンネ「できれば高齢者に貸したくない」のワケ【司法書士が解説】
筆者が頭を抱える「70歳以上の滞納者」の現実
そんな私でも滞納者の年齢が70歳を超えてくると、心配が高じて夜も眠れない日が増えてきます。高齢者の場合、次の部屋を貸してくれるところがなかなか見つからないからです。
なぜだと思いますか。理由はさまざまありますが、一番は「高齢者には孤独死の恐れがある」からです。
そもそも一般の方々には知られていないのですが、賃貸借契約は財産権なので、契約を結んだ賃借人が亡くなった場合、その相続人に相続されます。賃借権だけでなく、部屋の中の物もすべて相続人の財産となります。ところが荷物を全部撤去してから亡くなる賃借人はいません。家主側は勝手に他人の物を撤去できないので、荷物は相続人に片づけてもらうか、処分の同意を得ることが必要になります。
たとえば身寄りのない単身高齢者が亡くなった場合、家主側はまず相続人を探して、その方と賃貸借契約を解除して部屋を片づけ終わらないと別の入居者に貸すことができません。ましてや相続人が複数になる場合、法律上は相続人全員と解約手続きをしていくことが求められています。
しかし、個人情報の保護が叫ばれる現代では、利害関係者であったとしても相続人を探して連絡を取るのは非常に難しいことです。それなのに、民間の家主が相続人を探さなければならないとなると、これは大変な負担です。
ようやく相続人を確定できたと思っても安心はできません。相続人が行方不明の場合があるからです。行方不明だからといって、手続きがすぐに終わるわけではありません。この場合には、不在者財産管理人を選任して、その管理人と手続きしていくことになってしまいます。
また、ようやく見つかった相続人が、相続放棄してしまうことも多々あります。相続人側からすると、協力したいけれどできないといったところでしょうか。残念ながら善意で賃貸借契約の解約や荷物の処分をすると、その法律行為は、財産をいったん相続したものとみなされ、その後に相続放棄したくてもできなくなってしまうからなのです。