若い頃はすり傷で済んでいた「転倒」ですが、高齢になると命を奪われかねません。「たかが転倒」と甘くみていると、寝たきりとなる危険性も高まってしまうのです。本記事では、リタポンテ株式会社取締役であり理学療法士の上村理絵氏による著書『こうして、人は老いていく 衰えていく体との上手なつきあい方』(アスコム)から、高齢者における転倒のリスクについて解説します。
死亡者数3倍以上…「交通事故」よりも恐ろしい、高齢者にとって「最も危険な事故」とは【理学療法士が解説】
「たかが転ぶ」じゃない、高齢者の転倒リスク
肉体的・精神的な老化を予防する「セルフリハ※」の大きな役割の1つが、転倒しにくい体をつくることです。
※家で1人でできるリハビリのこと
たかが転ぶことと思うかもしれませんが、それが「たかが」ですむのは若かったときの話です。高齢者にとっては、この事故は「肉体的な老化」の最終到着地である「寝たきり」への出発点となりかねない危険性をはらんでいます。
高齢者が転倒すると、骨が弱くなっていることもあり、骨折を起こす危険性があります。高齢の場合、ケガからの改善に時間がかかるため、長い安静を強いられがちです。その結果、さらに体が衰えていき、寝たきりになってしまう……。
また、一度、転倒したことで、自分自身や周りが外出など動き回ることを制してしまい、活動量が減り、筋力が落ち、寝たきりに……。こういった話は非常によく耳にします。
さらに、転倒することで、より強烈に自分の体の老いを実感してしまったり、転ぶのが怖くて歩けなくなる「転倒恐怖症」になったりして「精神的な老化」を引き起こす可能性もあります。
「転倒」は、高齢者にとって交通事故の3倍危険な事故
消費者庁によると、2015(平成27)年4月から2020(令和2)年3月末までの5年間で、医療機関ネットワーク事業を通じて、65歳以上の高齢者が自宅で転倒したという事故情報が275件寄せられたそうです。うち、約69%を後期高齢者が占めていました。また、8割以上の方が、通院や入院が必要となるケガを負っていました。
もちろん、これは氷山の一角にすぎず、自宅外での事故、通報されない事故を含めれば、おそらく件数はこの数十倍にも上るでしょう。
さらに、こんなデータもあります。厚生労働省の「令和元年人口動態統計」では、高齢者の転倒・転落・墜落による死亡者数は8774人と発表されています。これは、交通事故の3倍以上の死亡者数です。
上村 理絵
理学療法士
リタポンテ株式会社 取締役