※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
ホンダ:人とモノの移動を「交通事故ゼロ」「ストレスフリー」に
1つ目は、ホンダの「CI」を使ったマイクロモビリティ。CIとは、協調型の人工知能(AI)を指すホンダの造語です。
いつでも、どこでも、どこへでも、人とモノの移動を「交通事故ゼロ」「ストレスフリー」で実現するべく、ホンダはさまざまな研究開発を進めています。そのなかで、CIが人(ユーザー)の意図のみならず、周辺の環境や周辺の人々の意図をも理解して、人・機会・社会の共生を目指します。
具体的な事例として、ホンダが開始した、CIを使ったマイクロモビリティの長期実証実験をご紹介しましょう。
実験の場所は、茨城県の常総(じょうそう)市の「アグリサイエンスバレー常総」。道の駅や観光農園、物流センターなどで構成される規模の大きな新規の施設です。
使用するマイクロモビリティは、主に2種類あります。
まず「サイコマ(CiKoMa)」。これは、ユーザーが搭乗するタイプの自動運転モビリティです。まずは小型ゴルフカートのような4人乗りを使って実験しています。
サイコマの特徴は、地図を使った制御ではないこと。一般的な自動運転では、高精度な三次元地図などを使って自車位置の確認をしますが、サイコマはリアルタイムで道路の構造を理解し、空間を認識することで走行ルートを計算し、進みます。
専用のコマンダーに「〇〇の前まで来て」と発話すると、そこへ迎えに来てくれます。また、その場所の付近で手を上げ「ここへ来て!」と指示すれば、停車位置が変更できます。まるでサイコマと対話しているような感覚です。
もうひとつの「ワポチ(WaPOCHI)」は、歩行者をサポートするタイプのモビリティです。カメラがユーザーの特徴をとらえ、認識すると、追従したり先導したりしてくれます。
こうしたホンダCIを活用したモビリティは、2030年代の社会実装を目指しています。
ブリヂストン:実用化が見えてきた「ワイヤレス給電」
2つ目は、走行しながら充電できる電気自動車(EV)用のタイヤです。2019年にブリヂストンから、充電コイルとインホイールモーターを組み込んだシステムの概要が発表されていますが、実用化に向けた方向性が少し見えてきました。
ワイヤレス給電の基礎技術は、東京大学の新領域創成科学研究科が2018年から産官学共同で技術開発してきたものです。
ワイヤレス給電は、スマートフォン用などの低電力向けに実用化されていますが、EVなど自動車用については2010年代からグローバルで研究開発が進んだものの、コスト高やインフラ整備などが課題となり、実用化には至っていません。
そうしたなか、東京大学では千葉県の柏の葉キャンパスの構内等で実験を行ってきましたが、2023年10月から、柏市内の公道でのワイヤレス給電の実証実験を開始。市街地の交差点付近の道路に充電インフラを埋め込みました。
使用する車両はワンボックス車で、車体後部にコイルを設置して行うもの。タイヤ内部のホイールを給電装置とするものではありません。
今後、タイヤ組み込み式のワイヤレス給電の公道実験が行われ、環境にやさしい走行中給電が実用化されることを期待します。
シャオミ:次世代EVを使ったエコシステム
3つ目は、中国のIT企業のシャオミ(Xiaomi)が発表した、次世代EVを使ったエコシステムです。
同社は2010年創業のベンチャーですが、スマートフォンで高いシェアを誇り、その勢いをIT系の新事業に振り向けているところです。
EVなどモビリティ関連事業については、2021年に社員3000人強の新会社を設立し、研究開発を進めており、2023年12月には初号機「SU7」を含めたEV事業計画を発表しました。
事業の柱は、「人クルマ×ホーム」というスマートエコシステムです。
EVというと、モーター、車体、バッテリーなどハードウェアの性能や、生産する技術の競争が取り沙汰されることが多いのですが、既存の自動車メーカーや、自動車産業界ではエコシステム全体を事業化する体制が確立されていない状況です。
そうしたなか、シャオミは自社OS(オペレーティングシステム)を駆使して「人×クルマ×ホーム」で、社会全体と結びつく壮大なビジネスにチャレンジしようとしています。
大分県豊後大野市:スマホを使った、大学生による買い物代行サービス
最後の4つ目は、少し視点を変え、大分県豊後大野市のスマホを使った買い物代行サービスを紹介しましょう。
人口3万人強の同市では、地域住民の高齢化が進む地域の地域公共交通を抜本的に変革する準備を進めています。
そうしたプロセスのなか、高齢者が「気軽におでかけ」できるモビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS:マース)として「おでかけま〜す」実証実験を大分大学と連携して行いました。
リモート方式の診察など、先方から同市に来るモビリティに加えて、市内で乗り合いタクシーを使い、地域の集会施設で集いの場「サロン」も提供しました。
そのなかで注目したのが、サロンに来た地域住民がLINEアプリを使ってスーパーマーケットにいる大分大学の学生とやり取りする買い物代行サービスです。
大学生との対話を交えた買い物が、地域住民の日常生活の活力となっています。
日常的に使っている既存ITサービスが、地域社会の実質的なモビリティサービスとして、低コストですぐに導入できる…。目から鱗が落ちるような、人にやさしい試みです。
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今回は4つの事例を紹介しました。取材を通じ、自動車テックにはさまざまな可能性があることを改めて実感しています。
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桃田 健史
自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。