とりビーの始まりは高度経済成長期。提供が速いので1杯目に最適だった

私がまだ学生の頃、外国人の友人と居酒屋に行ったときの話です。

席に座るなり私は「とりあえずビール」と注文をしました。すると、外国人の友人はメニューをめくりながら、「えーっと、TORIAEZU BEERはどこだろう?」と探していたのです。

ウソみたいですが、ホントの話です。

高度経済成長期にビールが一般化し、それまでよく飲まれていた燗酒(かんざけ)にくらべ注文後すぐに提供されることから、1杯目は「とりあえずビール」が流行したようです。

桂文珍さんの創作落語で「日本でもっとも飲まれているのは『とりあえずビール』」という噺(はなし)があったほどに、この言葉は流行しました。

ちなみに、2010年4月1日のエイプリルフールに神奈川県厚木市の「サンクトガーレン」という醸造所が1日限定で「とりあえずビール」を販売したことがありました。

「とりあえずビール」の前身は「とりあえずお酒」

「仕事帰りに1杯」の文化が一般的になったのは江戸時代後期といわれています。

享保年間(1716~1736年)に店先で飲ませるお店が初めて現れます。

徳利に酒を入れて持ち帰ってから飲むのが当たり前でしたが、お店で酒を飲むのが一般的になり、簡単な酒のさかなを出す店も増えてきました。

昔は「とりあえずビール」ではなく、「とりあえずお酒」だったのですね。ここから居酒屋文化が始まったといえるでしょう。

最近では「最初の1杯」は多様化しているが、ビール人気も健在

RECCOOが運営する「サークルアップ」では、Z世代の調査を行っており、その中で「大学生のビール離れ」に関する調査結果が報告されています。

この調査結果によると、最近の大学生の間では、最初の1杯として「レモンサワー」が人気だとわかりました。しかも第2位は「そもそも飲まない」という意見で、「生ビール」は第3位となっています。

たしかに、ビール離れが進んでいるという意見もあるのですが、一方で、全体の52%はビール離れが進んでいないという意見のようです。その理由としては、「周りの友達は結構飲んでいる」「友人がビールを飲んでいる動画をSNSに上げている」「1杯目はビールを飲みたいから」などがありました。

こうして結果からもわかるように、若者の1杯目は多様化しているものの、ビールの人気は相変わらずあるということがわかりますね。

「Z世代」(1990年代半ばから2010年代の序盤に生まれた世代)の間で、最初の1杯目が多様化する傾向があるそうです。合理的な考え方をしたり、個人の価値観を重視したりする彼らに、「とりあえずビール」という文化はなじまないのかもしれませんね。

Q. 最初の1杯は、ビール以外にどんなものが飲まれているのですか?

⇒A. 過去の調査では、ビールの他に発泡酒や第三のビール、チューハイ、サワー、カクテルなどが人気のようでした。けれど最近では、いきなりハイボールを飲む人もいたりして、むしろいろいろな選択が可能になっているといえそうです。もちろん各社の宣伝戦略が功を奏している場合もありますが、飲み会などの場でも、個人の好みを反映しやすい時代になっているともいえるかもしれません。

Q. ハイボールはなぜ人気になったのですか?

⇒A. ハイボールは、ウイスキーをソーダで割ったカクテル。ビールと比較すると、味にブレがなく、飲みやすいのが人気の理由だと考えられます。また、アルコール度数を調整することもできるので、「早く酔いたい」「あまり酔いたくない」など、ユーザーの意向を加味しやすいのも人気の理由かもしれません。ビールとハイボール、どちらも楽しめるようになるとお酒のバリエーションも豊富になりますね。

藤沼 正俊 
株式会社PERFECT BEER代表取締役 
キリンビールマーケティング株式会社(現・キリンビール株式会社)に勤務後、クラウドファンディングで資金を募り独立起業。2021年にビール専門店「PERFECT BEER GARDEN TOKYO」を東京の門前仲町にオープン。現在は直営店4店舗、フランチャイズ店11店舗まで事業を拡大させている(2024年3月現在)。