昨今、珍しくない熟年離婚。離婚自体のショックの最中、離婚手続きのほか、財産分与もしなくてはなりません。年金や退職金、不動産は誰のものになるのでしょうか? 婚姻の円満な終了と、その後の新たな生活を前向きにスタートさせるため、離婚時の財産の分配について知っておきましょう。角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・角村俊一氏が解説します。
こんなはずじゃなかった! 定年直前に妻から差し出された〈1枚の紙〉…熟年離婚したら退職金、年金、不動産はどうなる?【社労士の助言】
Aさんの退職金は誰の財産?
AさんとBさんは職場結婚。Aさんは働き続け、Bさんは結婚後しばらくして退職しました。
Aさんが定年退職すると、もちろん退職金はAさんに支払われます。Aさんの長年の勤務に対する「お疲れ様」的な意味合いが強いため、退職金はAさんの財産となりそうです。
しかし、Aさんが定年まで勤務することができたのは妻の支えがあったからこそ。Aさんの退職金は夫婦の協力関係により得られたものとも考えられます。
法務省「法制審議会家族法制部会第10回会議(令和3年12月14日開催)」の資料には、財産分与の対象に関し、「退職金など将来において取得が期待できる財産についても、婚姻中の夫婦の協力によるものと評価し得る部分は、対象財産となり得る」とあります。
また、日本公証人連合会のサイトにも、「退職金は、給料とほぼ同視でき、夫婦の協力によって得られた財産とみることが可能なので、財産分与の対象になり得ます」とあるように、Aさんの退職金は財産分与の対象となる可能性が高いといえます。
ただし、Aさんの退職金すべてが対象になるわけではありません。その対象となるのは婚姻期間に対応する部分の退職金に限られます。結婚する前に働いていた期間や、離婚してから働いた期間に応じた退職金は夫婦共同で形成したわけではないので、財産分与の対象にはなりません。
財産分与の割合は基本的に2分の1となるので、例えば、Aさんの勤務期間30年、婚姻期間20年、離婚時に見込まれる退職金が2,000万円であれば、「2,000万円×20年/30年×1/2≒667万円」がBさんのものとなります(あくまでも1つの計算例です)。