株式市場は「バイ&ホールド」に有利にできている

2007年のことである。私はそれ以前の4年間に株式投資で財産を3倍に増やすことができたのだが、「やり方次第ではもっと増やせたのではないか」という思いを強くしていた。なぜだろうか。

それまでの私の投資スタイルはというと、デイトレードから長くても1ヵ月程度のスイングトレードで、今と比べるとかなり短期的なものだった。当時は短期トレードが大流行。株の雑誌やネットでも短期トレードの手法が幅広く紹介され、それ以外の投資法は時代遅れとでも言わんばかりの状況だった。

ところがある時、自分が売買した銘柄の株価を長期的にチェックしてみた。すると驚いたことに、実際はその4年間に短期で売らずにただじっと持っていさえすれば、最初の買値から5倍や10倍に上がったものが大半を占めていた(図表1)。

出所:『個人投資家入門byエナフン 株で勝つためのルール77』(日経BP)より抜粋
[図表1]2007年以前に売買した銘柄の多くが、持っているだけで5~10倍高になっていた 出所:『個人投資家入門byエナフン 株で勝つためのルール77』(日経BP)より抜粋

何もしなければ5倍高や10倍高になった株を何らかの理由を付けて細切れに売買した結果、財産を3倍にしか増やせなかったわけだ。「これまでの努力は何だったんだ!」。私は自分の投資法に対して大いに疑問を感じざるを得なかった。

「自分は企業を分析して投資するスタイルなので、短期トレードよりも長期投資のほうが向いているのではないか」「会社勤めをしながらの短期トレードは根本的に不利ではないか」「何度も絶望と有頂天を味わいながらギリギリの勝負を続けてきたが、長期的に見ると、それらは取るに足らない小さな変化だったのではないか」……。

この時、以前図書館で借りて目を通し印象に残っていたある本のことを思い出した。“伝説のファンドマネージャー”と言われた、ピーター・リンチの著書『ピーター・リンチの株で勝つ』(ダイヤモンド社)だ。早速、アマゾンで購入し、改めてこの本を読み進んでいくと、自分の投資法を振り返って抱いた疑問が確信に変わり、読み終えた時に「次はリンチの投資スタイルで行こう」と決心した。

一度買ったら、少々上がろうが下がろうが、そんなのお構いなしで保有し続ける。前日のニューヨーク市場の値動きも、突然、飛び込んできた要人の発言も、SNSで共有される最新の注目テーマも全く気にしない。ただひたすら長期投資するに値する銘柄を探し続け、それを見つけたら、あとはそれをまとめ買いして、よほどの問題が起きない限り、ずっと保有し続ける。バイ&ホールド戦略だ。ウォーレン・バフェットやピーター・リンチ、あるいはジョン・テンプルトンといった米国の偉大な投資家が提唱してきた、極めてオーソドックスな投資スタイルである。

当然、ネット上の心理戦を避けることも可能だし、短期的な需給要因とも無関係だ。

「けど、そんな旧式兵器が現代の情報戦で本当に通用するのか?」。そんな疑問もあるだろう。しかし、大多数が将来性を無視した心理戦や需給戦に明け暮れていることこそが原因となって、逆に、将来性に着目した長期投資にはチャンスが広がるばかりだ。

また、長く保有すれば保有した分だけ、安定して配当も入ってくる。仮に配当利回りが3%あったとして、それを5年間保有し続ければ、株価が15%下がったとしてもまだ負けてはいない。

長期視点に立てば、株式市場は、基本的にバイ&ホールド戦略にとって有利なようにできている。短期視点ではわずかな優位性でも、時間が積み上がるとともにその優位性も積み上がり、小高い丘のようになって、敵を見下ろすことができるのである。