「月曜日の夜9時は街から女性たちが消えた」と言われるほど女性たちから絶大な人気と支持を受けた『東京ラブストーリー』。1990年代を代表するフジテレビの“月9”ドラマです。昭和生まれにとっては懐かしい、平成生まれにとっては新文化の「平成ドラマ」の数々。作家・コラムニストの小林久乃さんによる著書『ベスト・オブ・平成ドラマ!』(青春出版社)から一部抜粋し、平成ドラマの魅力や楽しみ方をお伝えします。

性欲や情熱に男女差はない…月9の金字塔『東京ラブストーリー』が与えた〈明るいカルチャーショック〉【バックトゥ平成ドラマ】
「ありがとう、赤名リカ」月9ヒロインになった瞬間
さて件(くだん)の『東ラブ』による「私のことで何を言うのも勝手だけれど、カンチのことを侮辱するのは許さない」という、潔さの詰まった台詞。いつか自分も使ってみたいと密かに狙っていたのだが、放送から数年後にその時が訪れた。
わたしの出身地である静岡県浜松市では『浜松まつり』という、子どもの誕生と成長を祝う盛大な祭りがある。朝から晩まで、飲んで食べて大騒ぎをするという、浜松市民の誇りであり、街全体が解放区の三日間だ。夜になるとお囃子の子どもをのせた、きらびやかな御殿屋台(山車)も街を彩る。そんな祭りの最中、個人的待望の事件が起きた。
当時仲良くしていた男の子と法被姿で歩いていると、前から来るチンピラカップルに絡まれた。それも男性からではなく、女性から。
「こんなチャラチャラした男、どこがいいのかね?」
確かに彼はチャラい部分もあったので、出会って数秒でその様子を見分けるとは、この女、勘がいい。でも好きな人が公衆の面前で、辱めを受けたとされたわたしは発奮。酒の効果も相まって、ここぞとばかりに決め台詞を思い出した。
「は? あんた、なに言ってんの? わたしのことをバカにしてもいいけど、Aくんのことをバカにしたら許さんからね!」
赤名リカに習うのならば、このあと相手を平手打ちにして驚愕させる。が、この一歩が間に合わず、わたしは酔っ払った相手の女から「なんなんだよ!」と、逆に平手打ちを受けてしまった。で、叩き返すわたし。憧れの台詞デビューは、女同士のヒステリックなプチ乱闘を、好きな人に制御してもらうという無様なエンディングを迎えた。それでも平手打ちまでの一瞬は、わたし、「月9」のヒロインであった。ありがとう、赤名リカ。
小林 久乃
作家、コラムニスト