デカルトはそれまでなかった新しい思考法を生み出し、後の哲学界にも影響を与えたことで「近代哲学の父」と称されるようになりました。有名な命題「われ考える、ゆえにわれあり」とはいったいどのような論理なのでしょうか。デカルトの思想について、著書『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)より、白取春彦氏が解説します。
火あぶりから逃れるための”神の存在証明”
生活費を得るためにプロテスタントとカトリックの2つの軍隊に属して生活することで自分のために思考の時間をつくっていたデカルトの哲学はやがて多くの人に影響を与え、論争、批判、称賛を呼び起こしました。哲学界では、ホッブズ、バークリー、スピノザの考え方に刺戟を与えました。
ところで、神の有無の問題になると、デカルトはおざなりで腰の引けた態度になります。デカルトはこう述べています。自分の中には完全な存在についての観念がある。不完全である自分の中に、完全なものの観念があるのはおかしい。それでもなお完全なものの観念があるのは、完全なる神によってその観念がきざみこまれたのでなければならない。だから、神は存在するのだ、というわけです。
デカルトがわざわざこのように、あたかもつけたしのような神の存在証明をしたのは、キリスト教会から唯物論者とみなされて火あぶりにされないようにするためだったのです。
賢人のつぶやき 良い精神を持っているだけでは十分でなく、大切なのはそれをよく用いることだ
白取 春彦
作家/翻訳家