家族やパートナーなど身近な人の死後、のこされた遺族には「大量の実務」が待っていると、『親を見送る喪のしごと』の著者で作家・エッセイストの横森理香氏はいいます。しかも、家族構成や状況によってぶつかる壁はさまざま。娘の進学のために夫と離れて暮らしていた村山さんは、急逝した夫の“あるヒミツ”のせいで、死後の手続きに苦労したそうです……みていきましょう。
夫の死後発覚した“まさかの隠しごと”に驚愕…「配偶者の急逝」で襲い掛かる〈相続・遺品整理〉の苦労
レコード、CD、楽器、家具…“思い出の品”は思い切って売却
環境保護のために夫が住み続けた「山の家」
霧島の山の家は、私も家族で何度かお邪魔したことがあるが、4,000ヘクタールの雑木林の中にある。環境保護の観点から、この雑木林を保護する意志で住み続けたのは、直系の村山さんではなく、夫君だった。
「鬱蒼として家に日が当たらなくなったからって木を切ると、烈火のごとく怒ってね」
そこは村山さんの父親が買った土地で、山の家も建てた。別荘として使っていたのだが、晩年は半分ぐらい住んでいて、お父様もそこで倒れた。よって、親の代からのさまざまなものが使ってない部屋に詰め込まれていた。
夫君が愛してやまなかったステレオセットと大量のレコード、CD。10代の頃から愛用していたもので、夜、お酒を飲みながら音楽鑑賞するのが好きだった。その他さまざまな調度品や家具、すべて大きなものなので、東京の家には入らない。
「母の買い集めたものはアンティークショップにタダ同然で売って、レコード900枚、CD500枚は東京のレコード屋さんに売ったの。段ボールを送ってくれるからそれに詰めて。DVDやMDは捨てて、オーディオや楽器は地元の音楽関係リサイクルショップに、ピアノは買ったお店が買い取ってくれたの」
「山林」は売れづらい…売却時は地元の人に相談を
片づけて、売れる状態にしても、山林は二束三文だという。
「4,000万円で買った土地が、たった500万円にしかならないの。それでも固定資産税がかかるより、売ったほうがいいから考えあぐねてたんだけど……」
最近になり、市が環境保護のため買い取ってくれることになった。買ったときの半値だが、2,000万円で売れた。
「山林は目的があって買う人には価値のあるものだけど、そうでないとお金にはならないの。だからこれは、その土地のことや買い手をよく知る地元の人に相談したほうがいいの」
亡くなってから3年。時間はかかったが、故人も環境保護の遺志を果たしたのだ。
横森 理香
一般社団法人日本大人女子協会 代表
作家/エッセイスト