デパートや映画帰り、食事のあと…“人種のるつぼ”新宿でひと息

「らんぶる」はフランス語で琥珀を意味する。「創業者の祖父はらんぶると同時に『琥珀』という名の店を経営していたこともあったんです」と、3代目にあたる重光康宏さん。

「祖父は、数年前に新宿の店を閉め、現在は軽井沢で規模を縮小して営業を続ける『スカラ座』の創業者と懇意にしていました。夏には軽井沢で『スカラ座らんぶる』という期間限定店舗を開いていたこともありました」などと、貴重な話を聞かせていただく。

店長の重光康宏さん。祖父の作り上げた店の雰囲気を大事にしているという。 撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
店長の重光康宏さん。祖父の作り上げた店の雰囲気を大事にしているという。
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋

創業者の祖父も、父も、叔父・叔母も医師という環境の中で育った康宏さん。ご自身は海洋生物の研究をするため学生時代は東京を離れていたが、祖父が亡くなり初めて店の経営に携わる気持ちが湧いてきたそう。そうして、2代目である叔父・叔母をサポートする形で店に入った。

「ここはもともと、音楽を楽しむ店としてスタートしていますが、今はコーヒーや軽食を味わいながら、ゆったりとした時間を過ごしてもらう場所に変化しています。新宿は人種のるつぼと言われるように、昔からさまざまな人が集まるまち。祖父も客層を限定せず、門戸を広く開いていろいろな方に利用してほしいという思いを持っていました。ですから今も、年齢・性別・職業問わず、どんな人でも気軽に入れるように努めています」

場所柄、デパートや映画帰りにひと息つく人や、近くの老舗てんぷら店で食事を済ませたあとに食後のコーヒーを……と、日常の中でも少し特別な気持ちを抱えて来店する人も多い。

私は、上京したての20代の頃、親しい友人と待ち合わせするのによく利用していた。編集者との打ち合わせや、雑誌の対談場所として使わせていただいたこともある。

いつも必ず注文するのは、浅煎りと深煎り、異なるタイプのコーヒー豆を使った「ブレンドコーヒー」。深い香りとまろやかな風味で、口に含むと身体の底からほっとできる。

今回、コーヒーに合わせていただいたのは、ナッツのクリームを挟んだ「アーモンドケーキ」。素朴な風味と清楚な佇まいから長年人気があるという。

店を満たす琥珀色の光。その光に包まれると、なんでもない日も特別な日も、自分がなにかの物語の一部になれたような気がしてくる。ちょっとした仕草も言葉も、きらきらと輝きを帯びたように感じられる。

私にとってらんぶるは、何気ない日常をドラマチックに輝かせてくれる、舞台のような存在だ。

撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)から抜粋
撮影/鈴木康史 『愛しの純喫茶』(オレンジページ)から抜粋

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JR「新宿駅」より徒歩約5分

住所:東京都新宿区新宿3-31-3 1F・B1

TEL:03-3352-3361

営業時間:9:30 ~ 18:00

定休日:元日

甲斐 みのり
文筆家