若者のレトロブームで、昨今再び注目を集めている喫茶店。なかでも、アルコールがメニューになく存分にコーヒーを楽しめる喫茶店のことを「純喫茶」といいます。旅行、お散歩、買い物帰りなど、たまには喧騒を離れてコーヒーと空間に思う存分浸ってみるのはいかがでしょうか。文筆家の甲斐みのり氏が『愛しの純喫茶』(オレンジページ)より、おすすめの純喫茶を2ヵ所紹介します。
階段を下りると200席の大空間…戦後から続く新宿の「名曲喫茶」
■新宿│新宿「らんぶる」
戦後の新宿では、「風月堂」「スカラ座」「でんえん」「ウィーン」など、複数の名曲喫茶が創業している。今ならば誰もが好きなとき好きな場所で自由に音楽を再生できるけれど、まだ娯楽が限られ、個人がオーディオセットを所有するのも贅沢な時代。クラシック音楽愛好者は上等な音響装置でLP盤を聴くために、専門店へ足を運んでいた。
クラシック音楽好きの初代が、新宿東口の中央通りに「新宿らんぶる」を開いたのは昭和25年のこと。その5年後には、地下1階、地上3階、400人を収容できる、当時の喫茶店としては国内最大級の店舗が完成。演奏するレコードのプログラム編成や解説に専従者がつくほど人が集まり評判が高かった。
そんな中、昭和49年にはビルへの建て替えにともない現在の姿に。通りに面したれんが造りの間口や1階フロアだけを目にすると、こぢんまりとしたスペースに見えるけれど、入り口左手の地下に続く階段を下りた先に、上下2層構造で200席を備えた、ダンスホールのような大空間が広がっている。
赤いベロア生地のソファやテーブル、高い天井を彩る2基のシャンデリアは前店舗から受け継いだもの。生地の張り替えや手入れをしながら、大切に使い続けてきた。
そうして多くの名曲喫茶・歌声喫茶が営業していた戦後の新宿の面影を残し、まちの歴史や文化を物語る店として、新宿区の地域文化財に認定されている。