米国航空宇宙局(以降、NASA)主導のもと、日本や欧州連合(EU)が参加し、月面調査や月面基地の建設を目指す「アルテミス計画」をご存知でしょうか? 計画では第1段階「無人の月周回ミッション」、第2段階「有人の月周回ミッション」、第3段階以降で「有人の月面着陸ミッション」を掲げています。当初は2025年末に有人月面着陸を予定していましたが、2024年1月16日に2026年9月への延期が発表されています。このアポロ計画から約50年ぶりに月面着陸を目指す「アルテミス計画」には、日本の宇宙航空研究開発機構(以降、JAXA)も参加しており、月面での有人探査活動で必要な「有人与圧ローバ(有人月面車。愛称、ルナクルーザー)」の開発にトヨタ自動車(以降、トヨタ)』や三菱重工業(以下、三菱重工)も技術協力しています。その開発では、月面の荒れた土地でも安全に走行可能なオフロード自動運転に対応した月面探索用モビリティの開発が進められています。月面探索の要となる有人与圧ローバには、多くの最新テクノロジーが投入されていますが、今回はオフロード自動運転を中心に、どのような技術が使われているのか、その必要性や将来の展望などをみていきます。
月面でも力強く走行!日本の宇宙開発で実現する「オフロード自動運転」 写真:トヨタ自動車

日本初の有人月面着陸機で実現する『自動運転技術』

ここからは、有人月面調査車『ルナクルーザー』について、オフロード自動運転の分野について詳しく解説していきます。

 

月面は、レゴリス(月面砂)やクレーター、岩石、傾斜などにより、非常に過酷な走行環境になっています。それらの課題に対して、トヨタが長年培ったクロスカントリー車『ランドクルーザー』の技術と、ブリジストンが開発する金属タイヤなどを投入で解決の道筋を模索中です。

 

また、走ったことのない月面を安全に走行するため、オフロード路での自動運転走行の研究も同時に行われています。地球上のカーナビゲーションシステム等は、人工衛星から発信された信号をもとに位置を特定する「GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)」を用いて自車の位置情報を測定しています。

 

しかし、月面ではGPSが利用できないため、電波を用いて自己位置を推定する「電波航法」や恒星の位置から姿勢角を推定する「スタートラッカー」、また三次元加速度から速度や移動量を推定する「慣性航法」などを用いて自己位置を測定。さらに周辺環境を把握するため、近年の自動運転開発で注目を集めている「LiDER(Light Detection And Ranging:光による検知と測距)」を利用し、障害物などを検知します。それらの情報をもとに安全に走行できる経路を生成し、マニュアル運転時のガイドに加え、自動運転の実現を目指しています。

 

ちなみに、オフロード自動走行の技術については、JAPAN MOBILITY SHOW 2023でも開発段階の技術が公開され、実際にも体験可能でした。会場では原寸大のルナクルーザー車内モックアップが用意され、画面に月面を模した仮想現実(VR)が映し出され、表示された推奨ルートに沿ってステアリング操作を行う体験コンテンツが用意されていました。

 

上述したオフロード自動運転の技術は、たとえば災害状況の確認であったり、危険な地域への物資輸送であったり、地球上でのモビリティ開発にもフィードバックするとトヨタが発表しています。月での利用を想定して開発された技術が、そう遠くない未来に市販車にも搭載される可能性があります。

月の次は火星!?「アルテミス計画」のロードマップ

 

アルテミス計画は、『MOON TO MARS CAMPAGN SEGMENTS』と記されているとおり、有人による月面探査の先にある、火星探査まで含めたロードマップを示しています。また、2024年1月に有人月面着陸のスケジュールを2025年末から2026年に延期し、新しいミッションカレンダーも公開されています。それが以下のとおりです。

 

アルテミス1:2022年に大型ロケット「SLS(Space Launch System)」を使い、無人のオリオン宇宙船(オライオン宇宙船)を打ち上げ、オリオン宇宙船が月周回軌道に入り、地球に帰還。2024年初に終了予定。

 

アルテミス2:2025年後半に行われるプログラム初の有人ミッション。オリオン宇宙船に4名のクルーが乗り込み、月周辺を飛行したあとに地球へ帰還。

 

アルテミス3:2026年にプログラム初の有人月面着陸を行うミッション。2名の宇宙飛行士が月着陸船「Starship HLS(スターシップHLS)」に搭乗し、月の南極へ降り立ち、永久影に埋蔵されているとみられる氷の探査。

 

アルテミス4:2028年に月周回軌道上でゲートウェイ宇宙ステーションとドッキングし、その後、ふたたび月面着陸することを含んだミッション。

 

NASAは、アルテミス4以降も継続的な月面調査を行い、2030年代の火星有人着陸を目標に掲げています。NASAともにJAXAも以下のような国際宇宙探査のロードマップを示しています。

 

オフロード自動運転から火星探査と、とても飛躍しているようにも感じますが、2030年代なので10年後と意外と近い未来です。そこで日本の自動車技術が活躍していると思うと、とても誇らしく感じます。最先端の技術が投入される宇宙開発の現場は、自動車産業にとっても重要な開発の場となっており、今後の動向に注目です。

 

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[プロフィール]

三木 宏章(合同会社コンテンツライト)

編集プロダクションにて、月間自動車雑誌の編集者としてキャリアをスタート。出版社に転職後、パソコン・ガジェットを中心したムックを担当。

出版社を退社後は、1年半にわたってバックパッカーをしながら17ヵ国を渡り歩き、帰国後はWEBコンサルティング会社でコンテンツ企画・制作・運用などを担当。その傍ら、コピーライターとしてブランディング事業などにも携わる。

2017年にフリーランスとして独立し、その後、編集プロダクション『合同会社コンテンツライト』を設立。自動車業界を中心に“ものづくり”に関わる多数の企業・メディアで執筆やコンテンツ支援を担当する。