※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
年明けの日本が衝撃を受けた、能登半島地震
2024年1月1日に発生した能登半島地震は、北陸地方を中心に甚大な被害をもたらしました。
亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。
被災地では降雪がある日もあり、気温も低い状況のなか、避難所や車中泊などでの生活が長くなり体調を維持することがむずかしい場合もあるでしょう。また、復旧・復興に向けて連日の作業に従事されている方々も大勢いることでしょう。
一日も早く、被災された方々が安心して暮らせる環境が整うことを切に願っています。
能登半島地震では、ドローン、遠隔医療、調査用ロボット、移動式シャワーなど、様々な分野の最新技術も導入されています。
ただし、これらが採用されたのは、地震発生から1週間近く経ってからの場合が多く、避難所などでの被災者支援が主となっています。
地震発生直前からその後における、最新技術の導入事例
ここからは、地震発生直前からの時間経過のなかで、各種の最新技術の導入事例を見ていきます。
まず、地震発生時に最も重要となるのは、災害に関する正しい情報をいち早く知ることです。ここの時点では、テレビやラジオなどのメディアの存在感が大きくなります。
また、スマートフォンでの緊急地震速報に代表される、情報提供サイドから積極的に情報を提供するプッシュ型の情報発信も実効性が高いといえます。
さらに、SNSを通じた個人、企業、自治体からの自主的な情報発信が、テレビやラジオで紹介され、情報共有の領域はさらに広がりました。
一方、地震発生後には通信障害も起こりました。その場合、津波警報などはテレビやラジオを通じて情報を得ることになります。
通信障害の復旧に際しては、後述する新技術もありますが、理想としては、地震発生直後から非常用通信回線に自動で転換する仕組みを検討するべきだといえます。たとえば、自治体の主要施設や地域の区長などを優先して、通信障害の復旧を行う仕組み作りが考えられるでしょう。
情報の収集後に最優先されるのは津波への対応であることが、能登半島地震でも教訓になりました。避難までの時間に余裕はなく、メディアを通じた情報のみならず、周囲の状況が普段と違うことを察知して、個人が即座に判断する必要があります。
退避方法は、それぞれの置かれた状況によって大きく違います。自動車や自転車など一定以上の速度が出せる乗り物を使う人もいれば、急な階段などを徒歩で登る人もいます。緊急避難に特化したモビリティという発想は、いまのところ商品化されていません。
このように、災害発生直前から発生直後については、最新テックが活用された事例は少ない印象です。
次に、災害に伴うけがや病気での病院への緊急搬送や、家屋倒壊などからの人命救助、そして火災に対する消火活動ですが、能登半島地震において特別なモビリティや新規技術が積極的に導入された、との報道はとくに見当たりません。
いわゆる「空飛ぶクルマ」が、将来的には、災害時に「空飛ぶ救急車」になるという発想があります。しかし、能登半島地震では、自衛隊のヘリコプターが着陸する場所を見つけられない場合、隊員がヘリコプターから宙吊りになった状態で患者や避難者を救助するといった高度な技術を用いており、こうした手法の代替になるモビリティの社会実装には、まだかなり時間がかかると考えられます。
各分野での活用事例
能登半島地震では最初の大きな揺れのあとも複数回の揺れを観測し2週間以上経過後に震度5弱の地震が計測されるなど、予断を許さない状況が続いています。
そうしたなかで、人命救助、道路や通信施設などのインフラ普及、そして避難所でのサポートとして、さまざまな最新テックが使用されました。
以下、分野別に紹介します。
ドローン
地方自治体から依頼を受けたベンチャー企業が、ドローンを使って孤立地域の現地調査などを行いました。がけ崩れや道路のひび割れや陥没によって車両が通行できない場所があったためです。
ただし、地震発生直後や発生翌日など、上空からの被害状況の把握はテレビ等の大手メディアによるヘリコプターからの映像が主体でした。今後は、防災におけるドローン活用について、各自治体の職員自らが活用できるよう平時から準備する必要性があるといえます。
輸送物資ですが、搭載可能な荷物の量も限られているため、緊急性が極めて高い医療品等に限られることになります。
また、現状のドローンでは、満充電での飛行時間が15分〜20分程度と短いため、状況の調査は限られています。その上で、実効性が高いドローンの利活用について、各自治体におけるドローン運用ガイドラインをまとめる必要もあるでしょう。
最新技術で注目されたのが、ソフトバンクが石川県輪島市の一部地域で実施した、有線で電力を送る携帯端末向けの中継システムです。
現行ドローンの弱点である対空時間の短さを、有線による電力供給で補い、一定の高さに長時間留まることで中継局としての役目を果たす。移動式の無線中継局を親機として、ドローンを子機とし、そこから携帯端末との通信を行う仕組みです。
そのほか、ドローン使用以外の通信回線の確保方法としては、KDDIは通信衛星サービス「スターリンク」を無償提供して、山間部の孤立地域などでの通信回線を確保する取り組みを行いました。
ロボット
陸上自衛隊は、被災者の誘導などを目的として四脚歩行式ロボットを採用しました。
これはアメリカのゴーストロボティクス社製「ビジョン60」で、アメリカなど複数の国の軍などでの導入実績があります。
こうした災害時で活動するロボットの実用化については、アメリカの国防高等計画局(DARPA)が2014年から2015年にかけて実施した「DARPAロボティクスチャレンジ」の存在が大きいと考えられます。筆者は当時、同イベントを現地で取材していました。
発案者は現在トヨタのエグゼクティブフェローで、当時DARPAに所属していたギル・プラット氏。
プラット氏によれば、きっかけは、2011年3月11日に発生した東日本大震災だったそうです。アメリカ軍が日本政府を支援する目的として、DARPAが福島第一原子力発電所に3機の無人ロボットを持ち込み、施設内部の状況の把握を試みました。しかし、3機とも使命を果たすことができなかった、という経緯があります。
この経験から、災害用ロボットの研究開発、そして実用化に向けた弾みをつけるため、災害用ロボットの技術を競う国際競技としてDARPAロボティクスチャンレンジを発案したのです。
同チャレンジでは、競技内容から四脚歩行式ロボットは出場しませんでしたが、アトラクションとしてイベントを盛り上げていました。
能登半島地震では、倒壊した家屋やビルでの人命救助で困難な状況が多数あったと報道されています。今後は、小さな隙間を移動したり、そこで重い家財などを押し上げたりするようなロボットなどが開発されることが望まれます。
その他
コロナ禍で実用化が一気に進んだ遠隔医療が、能登半島地震の避難所などでも有効活用され、その中でも、ロボット型の通信機器を介したアバターによる遠隔医療も実施されました。
また、少ない水量でシャワーなどの温浴機器を作動するシステムが、一部の避難所で使われました。
停電での対応では、EVやプラグインハイブリッド車から給電して、携帯端末などに充電する仕組みが、自動車メーカー各社と自治体との連携によって一部で実施される、などの事例があります。
以上のように、能登半島地震では、地震発生の数日後から様々な最新テックが有効活用された模様です。
そのうえで、今後の大規模災害に対する防災として必要だと痛感するのは、災害発生後の各方面における状況把握と、それに応じた敏速な対応です。
そのためには、各自治体が平時から個人や企業の基礎データと教育、医療、介護、交通、そして防災のデータを連携してデジタル化することが重要です。仮にオフラインになってもデータ管理が可能なシステムを構築することが望まれます。
こうしたデジタルトランスフォーメーション(DX)の下地があれば、最新テックの実効性がさらに向上することになるはずです。
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桃田 健史
自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。