自動車ユーザーや自動車業界関係者が不安と期待を抱きながら見守っていた、第1回ジャパンモビリティショーは、来場者112万人と盛況のうちに閉幕しました。今回のショーの実情と、取材を通して見えてきた自動車業界のこれからについて解説します。
「第1回ジャパンモビリティショー」レポート…各メーカーが工夫を凝らして打ち出した〈独自色〉の魅力 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

ベテランジャーナリストも、想定以上の盛況ぶりにビックリ

主催者である、一般社団法人 日本自動車工業会によれば、2023年10月26日から11月5日まで(一般公開は10月28日から)の開催期間中の来場者数は111万2,000人。同会が目標値として掲げていた100万人を1割以上超えており、実際に、会場内は連日大入りでした。

 

筆者は10月25日の報道陣向け公開日を皮切りに、主催者プログラムのひとつである「日本自動車ジャーナリスト(同協会:AJAJ)と巡るジャパンモビリティショー2023」でガイドを担当するなどして、連日会場内を巡っていましたが、こちらの想定以上の来場者の数に正直驚きました。

 

そんなジャパンモビリティショーでの現場体験をもとに、同ショーについて振り返ってみたいと思います。

とくに人気だった「トウキョウ フューチャー ツアー」

会場内マップを見ると、東ホールには自動車メーカー各社、さらに東ホールの奥手に次世代モビリティ関連とモータースポーツエリア。また、西ホールには1階に「トウキョウ フューチャー ツアー」、同4階に部品メーカー等。さらに、南ホールに水素を使って電源とするコンサート施設「H2 エナジー フェスティバル」会場と、子どもが各種職業体験を行える「アウト オブ キッザニア in JMS 2023」等という配置になっていました。

 

そのなかで、とくに人気が高かったのが「トウキョウ フューチャー ツアー」ではないでしょうか。主催者発表によれば、「トウキョウ フューチャー ツアー」の来場者数は約50万人で、総来場者のうち約45%が実際に体験したことになります。

 

ツアーの中身は、東京の近未来を生活シーン、災害対応シーン、遊びやスポーツでのシーン、そして食体験スペースと大きく4つのエリアに分けてモビリティとの関わり合いを紹介するものですが、会場内を進む中で自然と「この先が観てみたくなる」という気持ちを抱けるような演出でした。

 

なかでも、災害対応シーンでは、映画「ゴジラ -1.0」と連携した寸劇があるのですが、まるでゴジラ来襲の現場にいるような臨場感を味わうことができ、結果として来場者自身が日々の防災の必要性を強く意識することができたと思います。

 

このように、「トウキョウ フューチャー ツアー」は未来のモビリティの世界感を肌身で捉えることができる、まさにモビリティショーらしい試みだったといえるでしょう。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

日系メーカー各社に見られた、よい意味での「迷い」とは?

一方で、東ホールに入ると、一見そこは以前のモーターショーのような雰囲気がありました。

 

実は、一部の自動車メーカーは、企画段階で、「モビリティショーへの進化の証として、クルマそのものを展示しないブース構成」も検討していたようです。

 

最終的にはメーカー各社はクルマの展示を主体とすることに落ち着いたのですが、それでもそれぞれが個性的な展示となり、そこには各社の未来に向けた強いメッセージが込められたことが分かります。

 

ガイドツアーの順番で日系メーカー各社のブースをご紹介していきましょう。

 

日産

かなり派手なコンセプトモデルが壇上に並び、SNS上では「量産化の是非を巡って」賛否両論が巻き起こっていました。

 

日産関係者によれば「日本のマンガカルチャーを連想させるような、海外市場向けの分かりやすい表現方法」だといいます。アニメではなく、2次元のマンガという発想が実にチャレンジングだと感じます。

 

日産自動車、EVコンセプトカー第五弾「ニッサン ハイパーフォース」を発表 (nissannews.com)

 

三菱

次世代「デリカD:5」を感じるコンセプトモデルや、「デリカミニ」の”化身”であるキャラクター「デリ丸」が人気。

 

ルノー日産三菱アライアンスの中で、三菱としての”立ち位置”が明確になってきたことで、三菱ブランドのアイデンティティが確立されてきた印象です。

 

スズキ

2023年7月の改正道路交通法施行により誕生した、特定原動機付自転車(特定原付)に対応した「スズ ライド」や「スズカーゴ」といった小型モビリティに注目が集まりました。スズキはこれまで、スズキ販売店を通じて電動車いす「セニアカー」を販売してきましたので、こうした販路で新たなモビリティを活用した街づくりを進めることが現実味を帯びてきました。

 

そのほか、スズキのメイン市場であるインドでのEVシフトを日本市場でもうまく取り込んでEVのコストダウンを狙うことも考えられます。

 

ホンダ

量産の四輪車、二輪車の展示はなく、いわゆる空飛ぶクルマである「e-VTOL」、ホンダジェット、交換型小型バッテリーのMPP(モバイルパワーパック)を活用した軽自動車・船外機・小型パワーショベルなど、幅広い分野でのモビリティの進化を具体的に提案していました。

 

「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」取締役 代表執行役社長 三部 敏宏スピーチ内容 (global.honda)

 

スバル

空飛ぶクルマ「エアモビリティコンセプト」を披露。単なるショーモデルではなく、すでに飛行実験を行っており、その様子の動画が流れると来場者は驚いたような表情を見せていました。

 

2023年8月に掲げた新しい経営方針の中で、積極的なEVシフトをトヨタとの連携とスバル独自技術の二刀流で対応するとしています。そうしたスバルにとって大きな転換期を迎えるにあたって、中島飛行機由来のチャレンジ精神をエアモビリティコンセプトによって具現化したといえるでしょう。

 

SUBARU JAPAN MOBILITY SHOW 2023 ~「SUBARU AIR MOBILITY Concept」を初公開~(https://www.subaru.co.jp/)

 

マツダ

2ローターのロータリーエンジンを発電機として使うシリーズハイブリッド機構を持つ次世代スポーツカーコンセプトを初公開。電動化の荒波の中でも、他ブランドとは一線を画すデザイン思想や走りを極める車両開発などで、マツダブランドのさらなる進化を提案したのが印象的でした。

 

トヨタ/レクサス/ダイハツ

EVシフトを重視するものの、様々なパワートレインを並存させながら成長する、マルチパスウェイという考え方を強調。

 

また、これまでのセダン、クーペ、SUVといったボディ形状によるカテゴリーではなく、ライフスタイルにおける実際の使い方からバックキャストして、「群」という括りを提案しています。例えば、センチュリー、クラウンセダン、アルファード/ヴェルファイアはプロの運転手が対応する「ショーファーカー群」という位置付けです。

 

出展モデル/テクノロジー 公式企業サイト (global.toyota)

 

また海外メーカーの参加は、メルセデスベンツ、BMW、BYDなどと参加した企業は少なめでしたが、EVを中心に展示された最新モデルには来場者も高い関心を示していました。

 

そのほか、西ホールの自動車部品メーカーのブースでは、従来のような専門的な技術説明ではなく、広い世代が親しむことができる各種体験型の展示が好評でした。

 

以上のように、第1回ジャパンモビリティショーは、クルマからモビリティへの”時代変化の入口”の風景を映し出したといえるのではないでしょうか。

 

果たして、第2回の開催時には、ショーそのものがどんな進化を見せるのか?

 

いまからとても楽しみです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

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桃田 健史

 

自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。