近年、さまざまな情報がデータ化されて共有されている中で、生体情報もデータ化して活用する動きが広がっています。スマートフォンなどの「持ち運ぶデバイス」ではなく、「身体に装着するデバイス」であるウェアラブルデバイスは、医療現場でも注目され、活用されています。この記事では、医療現場におけるウェアラブルデバイスの活用について、現役医師が解説します。
ウェアラブルデバイスが医療現場の進化を加速させる?高血圧、糖尿病など慢性疾患の「診療の質向上」へ (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

日常生活におけるウェアラブルデバイスの浸透

昨今、様々なウェアラブルデバイスが私たちの生活の中へ浸透しています。ウェアラブルデバイスとはその名の通り、「ウェアラブル(wearable)=身に着けることのできる」+「デバイス(device)=機器」であり、手首や腕などに装着することができる小型のコンピューターを指します。代表的なウェアラブルデバイスとしてはスマートウォッチが挙げられ、たくさんのメーカーが用途に応じた製品を販売しています。今や、スマートフォンやスマートウォッチさえあれば、財布を持たずに買い物や外食することも可能な時代となりました。

スマートウォッチで「生体情報を管理」

 

昨今のスマートウォッチには様々な機能が搭載されています。日常生活における便利な機能には、メールのチェックや、タスクおよびスケジュールの管理、電子マネーでの支払いなどがあります。ヘルスケアに関する機能も充実しており、歩数計、移動距離、消費カロリー、体温、心拍数、酸素飽和度などの様々な生体情報も知ることが可能で、デバイスによっては睡眠の質、血圧、血糖値も測定できるようです。また、これらの健康に関する情報(PHR:Personal Health Recordとも言う)をスマートフォンのアプリで一括管理することもでき、こうした機能の進化は医療現場への活用も期待されています。

現状の医療現場はアナログ

医療現場においても、ICTを活用することで医療の質の向上が期待できるわけですが、残念ながら一般の病院や診療所ではICTが普及しているとは言い難い状況です。患者さんを診察する際には身長、体重、血圧、心拍数、体温、酸素飽和度などを必要に応じて測定し、その情報を診療録(電子カルテや紙カルテ)に記載します。しかし、そうした記録はその医療機関の中でしか見ることができないことがほとんどであり、患者さんが複数の医療機関を通院する場合でも、すでにある有用な情報を医療機関同士で共有することができないのが現状です。

慢性疾患の診療の質向上、高血圧の診療にも

従来では1ヵ月に1回程度、医療機関を受診した際にしか測定していなかった様々な情報を、ウェアラブルデバイスを用いることにより、日常的に測定、管理することが可能となっています。患者さんがどの医療機関を受診しても、それらの情報を活用することが可能です。また、ウェアラブルデバイスの活用により、慢性疾患における診療の質の向上にも大きく繋がります。

 

その中の一つが、高血圧です。高血圧は心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患や心不全などの重篤な疾患の原因となるため適切に治療することが必要となります。高血圧の診療において、患者さんの血圧を知ることはとても重要です。

 

高血圧を治療する際には、医療機関を受診する際に血圧を測ります(診察室血圧と言います)が、診察室で測定する血圧は、患者さんの家庭で測る血圧(家庭血圧)と数値が異なる場合があります。高血圧治療ガイドラインなどでは、血圧コントロールの際に診察室血圧より家庭血圧を優先してコントロールすることが推奨されています。

 

しかし、家庭血圧を知るためには、通常は自宅で血圧測定器を使って都度計測する必要があり、1日に1~2回程度しか測定できません。しかも思い通りの数値が出ないと何度も測定し直すこともあり、手書きで記載された血圧ノートの信憑性にも問題があります。

 

 

その点、血圧測定が可能なスマートウォッチを用いれば、わざわざ血圧測定器を使用する必要もないですし、1日を通した血圧を知ることができます。測定された値がそのままアプリに記録されるため、私たち医師はアプリを見せていただくだけで、その患者さんの1日の血圧の推移を知ることができます。

 

ウェアラブルデバイスで測定された血圧の精度に関しての課題はありますが、1日の中での血圧の大きな推移を知ることができるのは非常に有用であると思います。