2010年代までは「ロボット」といえば、「物語上に登場する架空の存在」といったイメージでした。しかし、2020年代に入ってからは、技術の発展により「身近なもの」「現実のもの」としてとらえられるようになってきました。今回は、いま現在活躍するロボットの実情について解説します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
いよいよ身近な存在に…現実世界で活躍する「ロボット」のさらなる可能性 (※写真はイメージです/PIXTA)

架空の存在から現実のものへ!…ロボットと人が共存する時代

 

ついに、日常生活のなかで「ロボット」と人が共存する時代となってきたようです。

 

日本では2023年4月1日、ロボットにも関連する法律として、改正道路交通法が施行されるなど、具体的な動きが出てきました。

 

私たちは、これからロボットとどのように付き合っていけばよいのでしょうか?

 

ロボットといっても、人によってそのイメージは様々でしょう。たとえば、1950年代~70年代頃までのアメリカ映画やテレビ番組では、宇宙人が操るロボット、富豪が地球征服を狙うために独自開発したロボット、そして企業や家庭で使う給仕ロボットなどが登場していました。

 

日本では、主にアニメーションにおいて、形が人に近く、高速での飛行能力があるロボット、人がロボットを纏うような形態の大型ロボット、クルマや飛行機などが合体する大型ロボット、そして未来から来たネコ型ロボットが、長年にわたってお茶の間の人気を博していました。

 

また、実機としては、大手電機メーカー等が考案した、癒し系の犬型ロボットなどが流行したことを思い出す人もいるでしょう。

 

しかし、2020年代に入ると、とくにエンターテインメントの世界では「架空のロボット」に焦点があたることは少なくなってきた感があります。やはりそれは、ロボットは最新技術によって「架空の存在」ではなくなり、「現実のモノ」になってきたからではないでしょうか。

 

半導体の高性能化、クラウドサービスの拡充、そして画像認識技術による自動走行の実現といったテクノロジー分野での技術革新などによって、今後は「実用性が高いロボット」が増えていくことが予想されます。

福島第一原発での経験が、災害救助ロボット開発の原動力に

 

ロボットを開発したい、導入したい、という思いの根本には、「人にはできないことをやってくれる」、また「人がやると時間と労力がかかることを高効率でやってくれる」といった考えがあります。こうした「人にできないことをやってくれる」ロボットのなかでも、必要性が高いもののひとつとして、災害時の緊急対応ロボットが挙げられます。

 

そんな災害時の緊急対応ロボット開発の原点ともいうべきプロジェクトとして、2013年から2015年にかけてアメリカで実施されたDARPA「ロボティクスチャレンジ」を紹介したいと思います。

 

DARPA(ダーパ)とは、アメリカの国防総省・高等研究計画局のことで、前身の機関が1958年に設立された理由は、当時のソ連との間での軍事競争における新たなる技術開発でした。

 

ここで生み出された技術の多くが現在の社会に大きな影響を及ぼしているのですが、代表的な2つの事例を挙げてみます。

 

1つ目は、衛星測位システムであるGNSS(グローバル・ナビゲーション・サテライト・システム)です。クリントン政権時の1995年、軍事衛星の民生利用として、アメリカのGNSSであるGPS(グローバル・ポジショニング・システム)を実用化しました。利用者はGPSの使用料金を支払わないという画期的な方式だと言えるでしょう。

 

2つ目は、WWW(ワールド・ワイド・ウェブ)で、これはインターネットのことを指します。最初はアメリカの軍需関連施設での情報共有システムとして考案されたものでしたが、そのシステムが段々と民間に広まっていったのです。軍需を基点とした技術開発のほかに、DARPAでは災害時の救援活動という側面での次世代技術開発を進めてきました。

 

そうしたなか、2011年3月11日に発生した東日本大震災による福島第一原発事故で、アメリカ軍は日本をサポートする立場として、原発施設内の様子を観察するために、作動機能が違う3種類のロボットを現地に投入しました。

 

ところが、この3機ともが日本とアメリカが期待した成果を得られず、早期の撤退を余儀なくされてしまいます。

 

この体験から、当時のDARPA職員だったギル・プラット氏は、「技術革新ため、産学官で連携する国際的な災害用ロボットコンテスト」を発案するに至ります。これが、DARPA「ロボティクスチャレンジ」です。

 

筆者が、米カリフォルニア州ロサンゼルス郊外で開催されたDARPA「ロボティクスチャレンジ」決勝を取材した際、プラット氏は「これをきっかけに、自動運転のように災害用ロボットの実用化がグローバルで加速することを願っている」と開催の意義を話してくれたことを思い出します。

 

プラット氏の願い通り、災害用ロボットは現在、世界各国がさらなる研究開発が進められており、さまざまな災害での力強い味方になる日も近いといえるでしょう。

 

実は、DARPAはこの「ロボティクスチャレンジ」を開催するよりも前の2000年代に、自動運転に関する大規模なコンテストとして「グランドチャンレンジ」を2回、「アーバンチャレンジ」を1回、合計3回開催したという経緯があります。その参加者らはその後、IT大手や自動車メーカー等に転じて、自動運転の量産化プロジェクトを指揮するようになっています。

すでに活躍中! 製造の現場で働くロボットたち

 

災害という重大なできごとのみならず、ロボットは日常的な社会活動のなかですでに活躍しています。それが、製造業の工場や物流の領域です。

 

たとえば、近年の自動車の最終組み立て工場では、重労働をロボットが代わりにこなす、製造ラインの自動化の精度が上がってきています。具体的には、プレス工程で切り出された部材をつなぐ溶接ロボットや、塗装工程での塗料を吹き付けるロボットがありますが、これらロボットの外観は人や動物の形ではなく、いわゆる工作機械の仲間になります。

 

また、工場内には自動搬送ロボットとしてAGV(オートメイテッド・ガイデッド・ヴィークル)も走行しており、こうした各ロボットの動きと人の動き、そして部品の搬入時間などを総括的に管理する制御システムの高度化が進んでいるところです。これはIoT(モノのインターネット化)と呼ばれる技術分野になります。

世界が注目! 道交法改正で大きく進んだ、日本での自動配送ロボットの実用化

 

IoTによるロボットの活用は物流倉庫でも進んでおり、荷物の自動仕分け、梱包、配送トラックまでの倉庫内の自動搬送などで、様々なロボットたちが活躍しています。

 

2010年代以降、インターネットを介した商品購入であるEC(エレクトロニクス・コマース:電子商取引)が盛んになってきたことで、物流では極めて高い効率化が求められるようになっているため、物流におけるロボットの役割は今後さらに多様になることが予想されます。物流のなかで、最終的に消費者の手元に商品が届けるためのロボットについても、実用化に道筋が見えてきました。

 

それが、2023年4月1日の改正道路交通法の施行によって生まれた、「遠隔操作型小型車」です。国は2020年から、「多様な交通主体」という切り口で、自動配送ロボットや電動キックボードなど、公道で走行する新しい種類の移動体に関する法律を検討し、今回の法改正に至ったのです。

 

自動配送ロボットについては、海外で実験の様子をテレビやネットで紹介された様子を見た人もいるでしょう。たとえば、アメリカの大手IT企業などがコンセプトモデルや、中国でのITベンチャーによる実証試験があります。

 

ただし、こうした海外事例では、地元警察から走行許可を受けた実証試験にとどまり、国としての法整備が明確化されていないケースが少なくありません。

 

そうしたなかで、日本の「遠隔操作型小型車」は自動配送ロボットの実用化に向けて世界でも画期的な法改正だと言えると思います。技術的な安全面についても、ロボットデリバリー協会の認定基準をクリアすることが求められるなど、総括的な対策を進めており、こうした日本の動きを世界が注目しているところです。

 

今後、自動配送ロボットでの課題は事業化の方法でしょう。初期導入コストと維持管理コストをどれだけかけて、消費者に具体的にどのようなサービスをいくらで提供できるのか? 自動配送ロボットを使った様々なビジネスのアイディアに、大いに期待したいと思います。

 

 

桃田 健史

自動車ジャーナリスト、元レーシングドライバー。専門は世界自動車産業。エネルギー、IT、高齢化問題等もカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。日本自動車ジャーナリスト協会会員。