メタバースへの注目が、教育分野にも大きな影響をもたらしています。従来の教育手法に加え、バーチャルな環境を利用した新たな学びの形が拡大しています。生徒や学生は、物理的な制約を越えて、仮想空間内でリアルタイムに学び合い、交流することが可能となりました。筆者と友人のタロタナカ氏は、2020年にVRChat上に「私立VRC学園」という学校コミュニティを創設し、参加メンバーと共に運営を行っています。このコミュニティは公式の学校とは異なる位置づけですが、「VR空間に学校を創る」というアイデアに基づいて立ち上げられました。最初は、異なるバックグラウンドを持つ人々が集まり、交流し、新たなアイデアを生み出すためのインフラ空間をVR上で実現することが目的でした。しかし、この取り組みからは単なるコミュニケーションの枠を超えて、教育における新たな可能性も見出されました。
メタバース空間に学校を作ってみたら…見えてきた「新たな学校教育の可能性」 (※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。

メタバースの特徴を活かした「バーチャル学校空間」

 

(私立VRC学園初期の授業の様子)
(私立VRC学園初期の授業の様子)

「VRChat」とは、アバターを使用してVR空間内にログインし、多人数でコミュニケーションを取ることができる無料のソーシャルVRアプリです。

 

メタバースに構築した学校コミュニティでは、VR空間上で授業や部活動などの学校生活を再現することが行われています。近年では、不登校の学生数の増加に伴い、メタバースを学校に活用する取り組みも増えています。

 

この試みから、筆者が気づいた教育におけるメタバースの活用ポイントは、「多様なバックグラウンドを持つ人々が集まり、交流を通じて新たな文化を生み出す」という側面です。

 

メタバースのユーザーは基本的にアバターを使用するため、外見や年齢、性別、国籍、ハンディキャップなどの物理的な制約をある程度無視して、様々な人同士がリアルのときよりフラットな会話をすることが可能です。

 

しかし、単にリアルな学校環境をバーチャルなものに置き換えるだけでは、メタバースの持つ魅力や可能性を十分に引き出すことはできません。メタバースの活用が既存の学校の枠組みに閉じてしまうと、コミュニティの領域が結局は既存の学校の中に閉じ込められてしまい、新たな発展が阻害されてしまうかもしれません。

 

 

通常、学校コミュニティでは同年代の地域住民が集まる傾向があります。しかし、メタバースの学校では、10代から50代までが同じ授業を受けたり、高齢者が中学生から学ぶことができたり、遠く離れた地域に住む人々が友達となり学校活動を楽しむことが可能です。筆者自身も、メタバースで作成した学校空間で講義を行う側と受ける側、両方を経験しましたが、その際、参加者の年齢や性別、国籍について知ることはほとんどありませんでした。素性を知らないからこそ、同じ立場からコミュニケーションを取ることができるというメタバース独特の魅力を感じました。

 

私立VRC学園に参加しているユーザーの中には、学生時代に不登校気味だった過去を持つ方や、現在も不登校である方も少なくありません。彼らとの対話の中で、「現在の学校にメタバースでの授業が導入されたら、学校に通いたいと思いますか?」という質問を投げかけたことがあります。その際、多くの人が「メタバースで授業を受けるのは便利かもしれないが、学校に通いたいという気持ちにはならない」と答えたことが印象的でした。

 

実際の社会において、学校は勉強だけでなく個人と他者との関係構築、コミュニティの形成など、社会生活を送る上で必要なさまざまなことを指導していく重要な機関です。メタバースを学校教育に組み込む際には、ただ「現実世界の活動をそのままメタバース上に実装する」のではなく、むしろ「メタバースを通じて現実以上の体験をする」というアプローチが基本となるべきだと考えています。