少子高齢化や都市への人口一極集中などを背景に、過疎化した地方などでは公共交通機関の利便性が低下し、移動を制約されている「交通弱者」が増加し、社会問題となっています。その解決策のひとつとして考えられるのが、「MaaS(マース)」です。MaaSとは、複数の交通公共機関やカーシェアなどのサービスを組み合わせ、ITの力を使って予約から決済まで一括で行えるようにする画期的な仕組みです。本記事では、そんなMaaSを通じて、公共交通機関の利用者に新たな利便性を提供し、また気軽に活用できる「MaaSアプリ」についてご紹介します。
都市の「渋滞」と地方の「交通弱者問題」を一度に解決!?「MaaSアプリ」が叶えるサステナブルな未来 (※写真はイメージです/PIXTA)

「MaaS先進国」フィンランドの取り組み

既存の交通システムを変革するMaaSは国外でも注目度が高まっており、官民連携による実用化や実証実験が、すでに世界各国で進められています。とりわけ、欧州ではMaaSの導入が盛んで、なかでも北欧のフィンランドが「MaaS先進国」として知られています。

 

フィンランドでは、すでに先述した「レベル3」に該当するサービスも始まっていて、その代表例が「Whim」というアプリです。

 

フィンランドがMaaS先進国となった背景には、「マイカーへの依存度」があります。公共交通機関の利便性が低く、自動車で移動する人が多いフィンランドでは、首都ヘルシンキなどで交通渋滞が頻発。社会問題となっていました。

 

そこで、MaaS Global社が政府の支援を受けて開発したのが、世界初のMaaSアプリである「Whim」でした。

 

「Whim」の特徴

Whimは2016年末に実用化され、複数の交通事業者の情報を統合し、経路検索から予約・決済までのワンストップサービスを実現しました。ヘルシンキ周辺エリアを対象に3通りの料金プランを用意しており、利用者が自由に選ぶことができます。

 

料金プランのうち、2つは「定額制」となっています。「WhimUnlimited」(月額499ユーロ)に登録すれば、ヘルシンキ市内のバス・電車・地下鉄・トラム(路面電車)の1ヵ月定期券がもらえるほか、タクシーは5kmまで無料、レンタカーやシェアサイクルが使い放題となります。

 

Whimユーザーの公共交通利用率は63%と、一般ユーザーの48%に比べ大幅にアップしているようです。

 

まとめ…交通システムの“あたりまえ”が変わるのか

矢野経済研究所は、プラットフォームやアプリなどを含めた日本国内のMaaSの市場規模を、2021年時点で4,905億円9,000万円と推計しています※5。

 

国土交通省によれば今後、MaaSの市場規模は急成長すると考えられ、2030年には国内市場が約6兆円、2050年までに世界市場が約900兆円にまで拡大するという調査結果もあるとのこと※6。

 

現在のところ、日本国内の高度なMaaSはテスト段階のものが多いようです。しかし、アプリの普及などにより実用化が進めば、現在の交通システムの“あたりまえ”をパラダイムチェンジさせてしまうかもしれません。

 

 

野澤 正毅

1967年12月生まれ。東京都出身。専門紙記者、雑誌編集者を経て、現在はビジネスや医療・健康分野を中心に執筆活動を行っている。

 

出典:    ※1 国土交通省「日本版MaaSの推進」
出典:    ※2 国土交通省「国土交通省のMaaS推進に関する取組について」p10「Maasレベル」
出典:    ※3 JR西日本「WESTERポータル」
出典:    ※4 JR西日本ニュースリリース「大阪駅(うめきたエリア)における「顔認証改札機」実証実験に向けてモニターの募集を開始!」
出典:    ※5 矢野経済研究所「モビリティサービス事業にMaaSプラットフォーム事業やアプリ事業を合算した、2035年の国内MaaS市場(12市場計)を2兆3,608億円と予測」
出典:    ※6 国土交通省「国土交通白書2020」1-1-3「技術革新の進展」
出典:    WESTER機能追加(インプレス)