※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
東京・丸の内駅舎のイベントで注目を集めたプロジェクションマッピング
プロジェクターを用いて建築物などの立体物に映像を投影するプロジェクションマッピング。リアルな物体とシンクロするバーチャル映像により、建物など投影する対象そのものが動いたり、変化しているように見せる技術です。
プロジェクションマッピングが日本国内で注目を集めたきっかけは、2012年に東京駅・丸の内駅舎保存・復元工事の完成を祝して行われた、国内史上最大規模の3Dプロジェクションマッピングイベント「TOKYOSTATIONVISION」です。
完成したばかりの駅舎に、計46台の超高輝度プロジェクターにより光を放つ映像が投影され、2日間で2万人以上を動員し、喝采を浴びました。
大正時代の開業当時の姿に蘇った、幅120メートル、高さ30メートルという巨大な東京駅舎が、メディア(媒体)でありながら、映像と一体化することでコンテンツそのものに華麗に変貌を遂げていく姿が、なんとも魅力的でした。
人々の人生の交差点であり続け、これからも人々の夢を運んでいく――東京駅の歴史・アイデンティティーが、蒸気機関車や花火などの華やかなモチーフとともに描かれました。光でつむがれた神秘的なショーは、観客を魅了しました。日本におけるプロジェクションマッピングの歴史が産声をあげた瞬間です。
それから10年以上の時を経て、プロジェクションマッピングにおける投影技術や、コンテンツとしての表現力はますます進化を遂げています。
プロジェクションマッピングの原点は、ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」
プロジェクションマッピングとは、「プロジェクション(投影物)」を「マッピング(位置付ける、張り合わせる)」する技術です。最大の特徴は、スクリーンや壁などの平面ではなく、建築物や樹木など、表面に起伏のある、立体物に映像を映し出す点にあります。
プロジェクション(投影物)のデザインやサイズのディティールに合わせて映像を編集し、投影時に投影物と映像がぴたりと重なり合うよう調整するには、最先端の技術が必要です。ですがその原点は、1960年代のアメリカに、すでに見ることができます。
1969年8月、アメリカのディズニーランドにオープンした「ホーンテッドマンション」です。「ホーンテッドマンション」には、現在のプロジェクションマッピングに通ずる投影技術が、すでに使われています。表情のない真っ白な大理石の胸像に、その凹凸とぴったり合うような映像を映し出すことで、その胸像がまるで話しているかのような不気味なシーンを演出しているのです。
この素晴らしい技術をもとに、クリエイターや技術者たちは「表現の幅をもっと増やし、屋外での投影が可能なものに発展させられないか?」と考えました。
機材や映像技術の発展にともない、屋外でも使用できるような高輝度のプロジェクターがクリエイターの手に届くようになったことが追い風となり、ついに大型の建築物に、ショート映像の繰り返しではなく、不可逆的に連続する映像を投影できるようになりました。
海外では2008年頃から建築物へ投影された作品が発表され始めています。2010年にアメリカのファッションブランド「ラルフ・ローレン」のイギリス法人が、ロンドンのニューボンドストリートにある本社の建物に、モデルのウォーキングなどを投影したPRコンテンツを発表し、世界にインパクトを与えました。
投影対象のスケール・活用方法拡大が一気に認知されたプロジェクションマッピングはその後SNSやYouTubeを通して世界的に拡散されます。そして日本でも東京・丸の内駅舎のようなクオリティの高い作品が生まれ、発展していったのです。