総務省によると、2022年の高齢化率は29.1%と、超高齢社会の現在。介護需要はいっそう高まる一方、介護業界は深刻な人手不足に悩まされています。そんななか、ITの力を借りて業務を効率化し、人手不足を解消する「介護テック」が注目を集めています。介護業界が直面する複数の課題と、介護テックのメリット・導入事例についてみていきましょう。
超高齢社会ニッポンを救う…「介護テック」の現在地 (※写真はイメージです/PIXTA)

夜間業務を90%削減できたケースも!「介護テック」の実例

画像はイメージです/PIXTA
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そこで、こうした介護現場の苦境を救う新たなソリューションとして期待されているのが、「介護テック」です。ITによって業務効率化や大幅な省力化を図り、介護職員の負担を軽減するのが大きな狙いです。介護テックが普及すれば、過酷な介護現場の労働環境も改善され、新たな職員も集めやすくなることが期待されます。

 

介護テックは、大きく分けると、

 

1.介護職員の代わりにAIやロボットが要介護者を見守ったり、介助したりする技術

2.介護職員の業務自体をAIやロボットが代替したり、支援したりする技術

 

の2つがあります。①では、高齢者向けの誤嚥予防や排尿予測、フレイル(注)の予兆を検知する技術、②では、介護作業の負担を減らす「アシストスーツ」などの研究開発が進められています。

(注)フレイル……心身の機能が低下し、要介護状態となる一歩手前の状態。

 

では、実際に活用されている介護テックの事例を、いくつかご紹介しましょう。

 

1.「介護ロボ」の活用で職員・要介護者双方の負担がゼロに

「ロボヘルパーSASUKE※5」は、移乗を手助けする介護ロボットです。自力で起き上がることが難しい要介護者をベッドから車椅子に移す際、2本のアームで「お姫様だっこ」をするようにシートごと抱きかかえ、車椅子に座らせることができます。

 

これを使えば介護職員が抱きかかえる必要はなく、要介護者も寝たままでいいため、双方に負担がありません。すでに老人ホームなど複数の施設で活躍しており、いままで職員2人がかりで行う必要があった介助作業も、職員がほとんど力を使うことなく行えるようになったケースもあるそうです。

 

2.AIによる見守りで、夜間巡視業務を「90%」削減

パナソニックは2020年、介護施設内をAIが自動モニタリングするサービス「ライフレンズ※6」をリリースしました。センサーや記録システム、コールシステムなどを通じて、入所者のなんらかの異常を検知すると、AIが集中管理センターに通報し、そこにスタンバイしている担当職員が居室に駆けつけるという仕組みです。

 

これにより、職員が夜間1時間ごとに行う巡回が不要になり、サービス付き高齢者向け住宅を運営する会社では、夜間巡視業務を約90%削減できた例もあるようです。

 

3.「ドライブボス」

介護には、在宅や通所(デイサービス)のサービスもあります。2016年の経済産業省の調査※7によれば、デイサービスの業務負担のうち「利用者の送迎」が約3割を占め、そのなかでも、利用者の家を回る順番やルートを決める「送迎計画」に、最も時間を割いていることがわかっています。

 

そこで、パナソニックカーエレクトロニクス株式会社は2018年、AIによる送迎支援サービス「ドライブボス※8」をスタートしました。利用者1人ひとりの条件に合わせた送迎計画をボタン1つで自動作成できるうえ、送迎車両の走行記録によって、ドライバーの運転状況なども逐一把握できるため、安全運転の意識向上も図れるといいます。

 

サービス導入によって、送迎計画の作成時間が約6分の1に低減できた事業所もあるようです。