近年急速に注目度が高まっている暗号資産(仮想通貨)。暗号資産には、その個々の性質に応じ、決済手段やアプリケーションへの関与などの本来の役割がありますが、日本においては、投機対象として認識されることが多いのが現状です。そのようななか、国内外で暗号資産取引所をめぐる事件が耳目を集めるケースが散見されます。本記事では、暗号資産をめぐる近年の規制の動向についてご紹介します。※本稿は、テック系メディアサイト『iX+(イクタス)』からの転載記事です。
法整備、どこまで進んでいる?「暗号資産業界」における近年の規制動向 (※写真はイメージです/PIXTA)

金銭の信託義務

改正前の資金決済法においては、暗号資産交換業者は、利用者の金銭を自己資金とは別の預貯金口座または金銭信託のいずれか片方の方法で管理すればよいこととされていました。これに対して、改正後の資金決済法では、預かった金銭について必ず信託銀行または信託会社を受託者とする金銭信託を行わなければならないものとされました。

 

これにより、暗号資産交換業者が倒産した場合でも利用者の金銭が保全されることになるほか、暗号資産交換業者による利用者の財産の流用を制度的に防止することが企図されています。

そのほかの新規ルール

以上のような利用者の資産を直接的に保護する規制以外にも、多角的な観点から利用者の保護を促進するルールが設けられました。

 

まず、それまで存在しなかった広告の規制が設けられ、暗号資産交換業者は、自身に関する情報や暗号資産の性質のうち利用者の判断に影響をおよぼすこととなる重要なものについては広告での表示が義務付けられました。さらに、虚偽広告や誇大広告はもちろん、投機目的を助長するような広告及び勧誘が禁止されました。また、信用取引を行う場合には、当該暗号資産の交換等に係る契約内容について、利用者に対し一定の情報を提供する義務が規定されました。

 

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

改正法を受けた暗号資産取引業者の対応

上記の法改正を受け、暗号資産取引業者はそれぞれが新規の規制に対応する体制を整備することとなりました。もっとも、暗号資産取引市場の健全化のためには、規制そのものに加え、その対象となる暗号資産取引業者のコンプライアンス意識が不可欠です。

 

上記の改正前から暗号資産交換業者に対する規制は存在したものの、2018年前半に行われた金融庁による検査においては、自主廃業をした業者を除き、全事業者に不備が認められ、業務改善命令が発出されるような状況で(※3)、各暗号資産交換業者のコンプライアンス意識が高いとはいい難い状況でした。

 

しかし、昨今はセキュリティや内部統制に関するノウハウの蓄積や意識の高まりにより、変化がみられるようです。金融庁のモニタリングにおいても、各種流出事件の原因とみられるサイバーセキュリティー対策に関し、インシデント発生時における対応手順の整備に進捗が見られるという報告があります(※4)。

 

また、利用者の利益に直接かかわらないマネーロンダリング・テロ資金供与対策等においても、担当官が他業態比でも内部管理体制の高度化が進む事例が見受けられると評していることから、コンプライアンス一般に対する意識そのものの高度化・成熟化が進んでいるのではないでしょうか。

 

(画像はイメージです/PIXTA)
(画像はイメージです/PIXTA)

まとめ

暗号資産を含むブロックチェーンを用いた技術の発展は目覚ましく、ステーブルコインやNFTなど、新たなワードが一般の目に触れる機会は日ごとに増しています。これに対応すべく、各国政府は法整備を進めています。例えばステーブルコインについては、FSB(金融安定理事会)やG20が声明を出し、監視と規制の強化を強める姿勢が国際的に確認され、わが国でも2022年の資金決済法等の改正でこれに対する規制が整備されました。

 

このように、法律の面からも利用者を保護する制度が整いつつありますが、完璧な制度というのはありません。過度に厳しい規制を暗号資産交換業者に課すことは、利用者保護に資する一方で、業者に負担を強いることにもなり得ます。過剰な規制は暗号資産分野のイノベーションを阻害するおそれもあり、ひいては利用者が新たなサービスを享受する機会を失ってしまうことにもなりかねません。

 

暗号資産のサービスを利用する側においても、暗号資産にまつわる正しい知識を身に着け、リテラシーを高めていくことが、今後の暗号資産分野の健全な発展にとって大切なことだと考えられます。

 

※1:破産法157条報告書(東京地方裁判所平成26年(フ)第3830号)
https://www.mtgox.com/img/pdf/20140723_report_ja.pdf

※2:「Initial Coin Offering」の略で、新規暗号資産(仮想通貨)公開を指す

※3:曽根康司「暗号資産交換所ビジネスの現状とモニタリングの方向性」『金融財政事情2022年5月17日号(3447号)』(きんざい2022)
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2022/20220517_1.pdf

※4:(前掲)曽根康司「暗号資産交換所ビジネスの現状とモニタリングの方向性」『金融財政事情2022年5月17日号(3447号)』(きんざい2022)
https://www.fsa.go.jp/frtc/kikou/2022/20220517_1.pdf

 

 

 

菅野 龍太郎

法律事務所Z 東京オフィス・代表弁護士

第一東京弁護士会

 

野口 雄亮

法律事務所Z 東京オフィス・パートナー

第二東京弁護士会