70種類以上の科目から自分で時間割を組むイギリスの中学生
二つ目の「内容」について説明しましょう。
日本の教育は、諸外国と比べて選択科目が非常に少なく、一律のカリキュラムが多い傾向にあることが度々指摘されています。例えばイギリスでは、中学3年生ほどの年齢に達すると、ほとんどの学校で子どもたちは時間割のすべてを70種類以上にも及ぶ科目のなかから自分で組み立てます。必修科目が中心で、選択科目の科目数と時間数が極端に少ない現在の日本とは、大きく異なると言えます。
日本の文部科学省も、「内発的動機の誘発」を重要課題と認識しており、子どもが「興味があるもの」「必要だと思うこと」を能動的に学べる環境にしていくこと目指しています。今後は選択科目を増やし、一律カリキュラムを減少させる方向に舵を切っていく見通しです。
選択科目が増えるとその組み合わせのパターンは膨大になります。人間には、選択肢が膨大であると判断基準に迷いが生じ、選択が困難になるという行動心理があります。そこで、豊富な経験のデータと多くの統計から、子どもたちに効果的にアドバイスできるのがAIではないでしょうか。
先ほど説明した「AI型教材」は、現在のところ教科や科目を横断して個人に合った学習内容を提案しているものではありません。しかし、将来的には教科や科目を横断して、個人に合った提案をすることも可能かもしれません。
なぜなら、AIのもつ手法のなかに「機械学習」「深層学習(ディープラーニング)」というものがあるからです。
AIはなぜ犬と猫を識別できるのか
機械学習とは、総務省の定義によると
(引用元:総務省ウェブサイト)
とあります。
例えば、大量の犬の写真と、猫の写真をAIコンピューターにインプットすることで、犬と猫を区別すれば、犬と猫を区別するパターンやルールを見出し、新しい犬の写真をインプットした際に「犬である」という区別をすることができるというものです。
さらに、この「機械学習」の手法の一つに「深層学習(ディープラーニング)」というものがあります。「深層学習(ディープラーニング)」とは、総務省の定義によると
とあります。
例えば、前述の機械学習の際に、人間がAIコンピューターに「瞳の形に着目する」というヒントを、あらかじめ入力します。犬は瞳(瞳孔)が常に丸形であるのに対し、猫は瞳(瞳孔)がタテ長にある傾向があるからです。このヒントを犬と猫の大量の画像と併せてインプットすることで、AIはよりスムーズに、犬と猫を識別することができるのですが、「深層学習(ディープラーニング)」では、「瞳の形に着目する」のがよいということ自体も、自ら学ぶことができるということです。
AIが子どもたちと将来の夢をマッチング
この「深層学習(ディープラーニング)」という手法を活かせば、統計上、それぞれの子どもに合っている可能性がもっとも高い選択科目を組み合わせた1週間の時間割を提案することが可能です。
さらにその延長として、進学先や就職先など、将来の夢をレコメンドしてくれるAIシステムを開発できる可能性も十分にあります。しかし、このようなAIシステムを確立するには乗り越えなければならない障壁があります。
AIコンピューターによる子どもたちへのレコメンド機能に高い精度をもたせるには膨大な「学習データ」が必要です。たとえば、がんの研究者になりたい子どもがいた場合、もちろんその子どもの学習履歴や生体情報、身体能力、IQ、EQなどの情報は重要です。しかし、その他にも不可欠な情報があります。
それは、すでにがんの研究に携わっている研究者たちの過去の学習履歴です。その学習履歴は、例えば読書履歴や経験したスポーツ、習い事など広義であればあるほど役立つはずです。
そこで、我々の学習履歴を一極化して巨大なデータベースを構築し、必要がある人はアクセスができる「教育ブロックチェーン技術」の導入の研究が近年では進められています。「ブロックチェーン」とはひと言で表すと、一度入力すると上書きすることができない、堅固なデータベースのことです。
その信頼性の高さ、データ改ざんの難しさから、ビットコインをはじめとする多くの暗号資産(仮想通貨)の取引などに活用されています。
また、クレジットカード会社のマスターカードは、独自に開発したブロックチェーン技術を適用した自動決算システムを2017年より導入しています。仮想通貨ではない既存の法定通貨に関するデータを扱っており、ブロックチェーンは活用の幅をどんどん広げています。
ブロックチェーン技術を教育分野に応用するために、現在、文部科学省や総務省が連携して法整備の研究を進めています。
「AIが子どもたちと将来の夢をマッチングしてくれる」「自分自身や周りの大人たちが気づけなかった、気づいてあげられなかった子どもの才能をAIが教えてくれる」、そんなワクワクする未来が実現するかもしれません。
(文:福永奈津美)