“お手上げ状態”の慢性疾患に新たなアプローチ…次世代型医療「機能性医学」の実力 (※写真はイメージです/PIXTA)

現代医療の進歩を以てしても原因が特定しにくく、“医師泣かせ”に陥りやすい慢性疾患。これに対し、身体をひとつの生態系と捉え、機能異常のパターンを調べて根本原因に働きかける「機能性医学」という新しいアプローチで治療を行っているクリニックが小西統合医療内科(大阪市)である。院長の小西康弘医師に、機能性医学の考え方について臨床例の紹介も交えて話を伺った。

熱心な医師ほど「慢性疾患」で“治療の限界”を実感

超高齢社会でありストレス社会とも称される日本において、今や高齢者だけでなく若い世代にも、慢性的な不調を抱える人が増えている。

 

小西康弘院長は「皮肉なことに、これだけ高度に専門化した日本の医療体制を以てしても、治療が手詰まりになったり対症療法で終わったりしがちなのが、こうした慢性疾患や不調です」と話す。

 

「現在の標準的医療では、どうしても表に現れる検査異常や症状に重きが置かれるため、それで器質的な異常が認められなければ治療対象にならず、原因不明として置き去りにされやすいのが問題です。そのため、目の前の患者さんをよくしようと熱心であればあるほど、治療に限界を感じるジレンマに陥りやすいのです」

 

こういった問題に対しては、医療が専門分化しすぎたため、その狭間にいる患者さんが埋もれてしまうためだ、という指摘はかねてよりあった。

 

小西院長自身、医学生時代から専門分野に分かれた縦割りの医療体制に矛盾を感じ、全人的医療、統合医療のあり方を考えてきた。「医学部のカリキュラム以外にも、補完代替医療等さまざまな治療法を自主的に学んだものの、中には科学的な根拠に乏しく効果に首をかしげざるを得ないものもあり、医師になってからも試行錯誤が続きました」と振り返る。

 

そのような中、一筋の光明をもたらしたのが1990年に米国の生化学者Jeffery Bland博士によって提唱され、医学の新しいパラダイムとして欧米中心に広がった「機能性医学」との出会いだった。

 

「それまでは、医療の縦割り体制が原因だと思っていたのですが、そうではなく、標準的医療が水面の上に見えている氷山の一角しか見ていないことが原因であるということがわかったのです」

真に診るべきは「症状が出ている一部分」ではない

機能性医学とは、人体を一つの生態系(システム)とみなし、それを構成している細胞や分子レベルで病態を捉え、細胞の本来の働きを整えることで症状の改善を目指す治療法である。

 

小西院長は、機能性医学について次のように解説する。

 

「治療の対象は、人間のいわば『土台』の部分です。さまざまな症状が起こるのは、身体の土台のバランスが崩れているから、というのが機能性医学の基本的な考え方だからです。慢性疾患で認められる症状や検査異常は、海面の上に顔を出した氷山の一角であると言うことができ、水面下にある部分に、身体に不調をきたす本当の原因があると考えます。

 

しかし、通常の私たちは、言わばその氷山の一角だけを見て全体を診断、治療をしようとしているわけです。水面下には体調不良の原因になる身体のバランスの崩れた状態が手付かずのままで放置されていると言ってもよいでしょう。だから、医学が進み新しい薬が次々に開発されているにも関わらず、慢性疾患が一向に減らないのです。

 

機能性医学というのは、この水面下に放置されている氷山の本体にアプローチしようとする試みであるということができます。そして、水面下に起こっている事象のバランスを取り戻すことができたとき、慢性疾患は根本的に治癒するのです。『土台』、つまり人の身体を機能させている循環や代謝等のシステムに何が起こっているかを知り、整えていく分野こそが、機能性医学というわけです」

 

機能性医学について、【こちらの記事】でもより詳しい説明を読むことができる。

標準的治療では手詰まりの「起立性調節障害」では…

小西院長は機能性医学に基づいた治療により、今まで数千人以上もの慢性的な不調を抱える患者さんを診てきた。一例を挙げるだけでも慢性疲労症候群、起立性調節障害、低血糖症、過敏性腸症候群と多岐にわたり、その多くが、他院では原因不明とされたり、対症療法が行われたりしてきた症例である。

 

その中の一つ「起立性調節障害」について、自身の臨床経験から「特に、機能性医学に基づく治療で改善が期待できる疾患です」と言う。

 

思春期に起こりやすく、有病率は小学生で5%、中学生で10%ともいわれている起立性調節障害は、午前中調子が悪く、頭痛・生理痛・めまい・手足の冷え・腹痛・吐き気・倦怠感など、多彩な症状を合併することがあり、「保健室登校や不登校の要因になることも多々あります」と話す。

 

「標準的治療の考えでは、自律神経失調症の一つとされ、脳血流の低下によるものとされていますが、根治的治療は確立されておらず、対症療法的に血圧を上げる薬や経口鉄剤、漢方やビタミン剤、時には抗うつ剤などの向精神薬が使われることもあります。

 

対症療法で経過観察を行い、『思春期に特有の症状だから、生活リズムを整えて規則正しい生活を送ればそのうちよくなりますよ』と言われることがほとんどです。しかし、いつまで様子を見てもよくならないので、当院を受診されることも多いです。

 

子どものころに起立性調節障害だった人の4割が、成人後も日常生活に支障をきたす症状を抱えているとも言われており、時間の経過に任せるスタンスには疑問があります」

機能性医学に基づいて診れば「治療の糸口」がある

こうした難治性で著しく生活の質を下げる起立性調節障害に対して、機能性医学によるアプローチを行っていることを聞きつけ、他院で改善が見られなかった患者さんが毎月数十名も訪れる。その治療法とは――。

 

「標準的な治療では、起立性調節障害は自律神経の病気とされ、それ以上踏み込んだ検査や治療を行いません。しかし機能性医学では、自律神経のバランスを乱すなんらかの原因が水面下にあるはずと考え、それに対する検査や治療を試みます。たとえば、重金属の蓄積や抗ストレス・抗炎症ホルモンとして知られるコルチゾールの低下、遅延型食物アレルギーなどです。

 

これらの水面下で起こっている事象を調べる検査はバイオロジカル検査と言うのですが、日本国内で行うことができず、すべてアメリカに送っています。これらにより副腎機能の低下やリーキーガット症候群と言われる病態、腸管免疫の低下、重金属の蓄積の有無など、自律神経のバランスが崩れる原因が正しく診断されるのです」

 

10歳代であるのにも関わらず重金属の蓄積が見られることも多く、キレーションと呼ばれる有害金属を体外に排泄する治療を行うことにより、改善に向かう患者さんも多いと言う。中には、起立性調節障害を専門的に診る病院へ何年も通院していた患者さんが、半年程度でみるみるうちに軽快した症例も少なくない。

 

「患者さんが活き活きとした表情を取り戻すのが何よりの喜びです。ずっと寝たきりだったのが学校へ行けるようになったとか、志望校に合格したといった報告を聞くと医者冥利につきます」

 

起立性調節障害の治療について、より詳しい解説は【小西統合医療内科HP】で読むことができる。

 

小西院長はさらに、「機能性医学は、身体の土台にあるシステムを整えることにより、生命活動をつかさどる中核ともいえる遺伝子の発現コントロールも可能です」と言う。

 

「近年、遺伝子について、“先天的に決まっていて変えることができないもの”ではなくて、後天的な要因で発現の有無が決まるという『エピジェネティックス(遺伝後成学)』の考え方が広まってきています。体内の環境を整えることで疾病に関与する遺伝子の発現抑制や、疾病予防に関与する遺伝子の発現促進が期待できるという意味で、機能性医学はエピジェネティックスに働きかける医学、と言うこともできると考えます」

 

今や2人に1人がかかるとされるがんも、機能性医学のアプローチで発症予防や進行抑制が可能とする説もある。つまり、エピジェネティクスを整えることでがん遺伝子の発現を押さえ、がん抑制遺伝子の発現や長寿遺伝子の活性を高めることが可能になりつつあるのだ。今後に期待が持たれる。

標準的治療と機能性医学の「連携」が理想

高度に専門化した現在の日本の医療体制において、慢性的な不調はブラックホールになりがちである。国は近年、特定の臓器や組織に関わらず全人的に診る領域としての総合診療科の普及に力を入れはじめているが、小西院長は「一人の医師がすべてを診るのは、現実的ではありません」と指摘する。

 

「仮に、それができるようになったとしても、標準的な治療、つまり水面の上に出ている部分だけで診断治療を行うというアプローチ自体が変わらなければ、単に現在の“縦割り医療”を一人で担うことに過ぎないと思うのです。『専門分化した標準的医療が悪い、必要ない』ということではなくて、水面下にある事象にも目を向ける医療と併存することが大切だと思います」

 

小西院長が理想と考えているのは“従来の標準的治療を行う医療機関と、機能性医学に基づく治療ができる医療機関との連携”である。

 

「標準的治療では手詰まりになったり、対症療法で終わってしまったりするケースを、機能性医学を実施する医療機関で担当することができれば、患者さんにとって本当の意味での総合的な医療が提供できるのではないでしょうか」

 

標準的医療を批判したり否定したりする意見がネット上でも跋扈する中、新しいパラダイムを組み合わせた建設的なシステムを具体的に提案しているという点では、特筆に値するだろう。

 

また、小西院長は「機能性医学はまだ30年ほどと歴史が浅く、エビデンスの蓄積はまだ途上にある段階」と言う。

 

「科学的な知見に基づき、生化学検査の結果から治療方針を立て行っていくことは標準的な治療と同様ですが、今後さらに臨床研究モデルを構築し高いエビデンスを得ていくことが課題ではあります。近年、機能性医学に興味を持ち勉強をしている医師も増えつつあります。今後さらに志を同じくする医師の輪を広げるべく、未来の日本の医療を担う若い医師の力も必要と感じています」

 

小西院長の発信している情報は、【こちらのリンク集】から読むことができる。

 

当サイトでも、12月23日(木)より「自己治癒力を高める機能性医学」と題して、連載を開始する。興味を持った方はぜひ、そちらの連載も引き続きご覧いただきたい。

 

 

また、慢性不調等の診療で困っているケースや機能性医学に関するドクターからのお問合せも、下記のメールアドレスで受け付けている

 

【ドクターからのお問合せはこちら>> cs.konishiclinic@gmail.com】

 

 

小西 康弘

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長

総合内科専門医、医学博士

医療法人全人会 小西統合医療内科 院長 総合内科専門医
医学博士

京都大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院・京都大学消化器内科などで内科全般を研修し、消化器内科を専門とする。内科医として約20年病院勤務。現在は、小西統合医療内科院長として、機能性医学を柱とした統合医療の立場から診療に携わっている。

【小西統合医療内科HP:https://www.konishi-clinic.com/

機能性医学に関する情報をFBなどで発信しています。
下のリンク集をご参照ください。
https://lit.link/doctorKonishi

著者紹介

連載“その人全体を診る”医療の実現…「標準的医療」と「機能性医学」の連携

自己治癒力を高める医療 実践編

自己治癒力を高める医療 実践編

小西 康弘

創元社

病気や症状は突然現れるのではなく、それまでの過程に、自己治癒力を低下させるさまざまな原因が潜んでいます。だからこそ、対症療法ではなく根本原因にまで遡って治療を行うことが重要なのです。 本書では、全人的な治癒を…

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