相続登記で行う「予防法務」の重要性を伝えたい
相続増税時代に突入し、相続税対象者は昭和33年以来過去最大に。相続人同士の争い、高額な相続税負担、財産の損失など、残された者の人生を揺るがす可能性があるゆえに、頭を悩ませる人も多い。
そんな中「かけがえのない財産や人間関係を守り、円満相続を叶える一助となりたい」という想いを抱き、司法書士・不動産鑑定士・税理士・不動産コンサルタント・遺品整理士・事業承継コンサルタントの専門家が立ち上がった。そして、「対策の難しい相続に悩む人」のために「正しい知識」を伝える本を出版した。
著者陣へのインタビュー記事、最終回は司法書士・石川宗徳氏。相続をきっかけに親族間で争いが起こるケースを多く見た経験から、紛争の予防・対策の重要性を痛感。「予防法務」という考え方を大切にし、1つでも多くの「防げたであろう争い」を減らすことを目標に、他の専門家とともに、相続に関するコンサルティングを行なっている。
石川宗徳(司法書士)
趣味はフットサル、将棋、ルアーフィッシング。
――司法書士とはどのようなお仕事なのですか?
司法書士は、法務局や裁判所へ提出する書類の作成や提出等を行う法律の国家資格です。不動産を購入されたことのある方や事業をされている方は、不動産の登記や会社の登記の手続きの際に司法書士へ登記手続きのご依頼をされたことがあるかもしれませんね。
――相続において、具体的にどのよう関わりがあるのですか?
そうですね、主なところとして「相続した不動産を名義変更するための登記手続き」があります。そのほかに「相続手続きに必要な戸籍等の収集」「亡くなられた方名義の預貯金口座の解約手続き」「相続放棄申立書の作成」、また、直接相続とは関係しませんが「成年後見人選任の申立書の作成」のご依頼をいただくこともあります。相続において、司法書士が携われる業務は多岐にわたります。
――本書内では、「2割近くもの方が相続登記をしていない」と書いてありますが、相続登記をするメリットにはどのようなものがありますか。
相続登記には、相続税の申告のように「相続が発生してから10ヶ月以内」というような法律上の期限がありません。また、相続登記をしなくても罰則があるわけではありません。そのため、相続登記をせずに放置しているケースも少なくありません。
ですが、不動産の登記簿は原則として、その不動産の所有者が誰であるのかを証明する決め手となります。そのため、相続登記は不動産を承継した相続人の「権利の保全」をするものであり、そして将来的に不動産の所有を巡る争いを防ぐことにつながります。
法的な手続きをしっかりと行なうことにより、将来の争いを未然に防ぐことを「予防法務」といいます。病気にならないように気を遣うことを「予防医療」といいますが、それの法律バージョンと言えばイメージがしやすいかもしれません。
――不動産の登記以外の「予防法務」はありますか?
司法書士が関わる「予防法務」の例としては、「認知症の方の権利や財産を保全するための成年後見制度の利用をサポートする」、「お金という大切なものを扱うための契約書や遺言書の作成をサポートする」、「相続人同士で話し合いが終わった後に紛争が起こらないよう遺産分割協議書の作成をサポートする」、「会社をスムーズに経営できるように会社の登記をサポートする」などがあります。
――司法書士が相続について多岐にわたって関わりをもたれていること、「予防法務」の重要性が良く理解できました。ありがとうございました。最後に改めて読者に伝えたいメッセージをお願いします。
こちらこそありがとうございました。私は昔から人と人の争いを見ることが好きではありません。それだけに、争いが起こらないように対策をすることが重要だと考えており、この「予防法務」という言葉を大切にしています。
思えば、私が司法書士という仕事を選んだ理由は、法律を活かして「国民の権利の保全に寄与する」ことを仕事にできると考えたからでした。大切なご家族が将来、相続をめぐる争いを起こさないように、「予防法務」をしっかりと行なっていただければと思います。
佐藤良久、近藤俊之、幾島光子、石川宗徳、森田努、島根猛 著
『円満相続を叶える正しい知識』
「相続した不動産、売るべき?売らないべき?」
「信頼できる税理士の見極め方を知りたい」
「不動産価格を巡って意見が分かれてしまった」
「倉から掛け軸を発見。誰に相談すればいい?」
「会社を任せられる後継者がいない」
「対策が難しい相続」に悩む人は、決して少なくありません。本書では、司法書士・不動産コンサルタント・税理士・不動産鑑定士・遺品整理士・事業承継コンサルタントの6名が、事例と共に相続に関する悩み解説。大切な資産と人間関係の守り方を教えます。