今回は、「調整型」の遺産分割協議の進め方などを見てきます。※本連載では、相続事件研究会の編集による書籍『事例に学ぶ相続事件入門―事件対応の思考と実務』(民事法研究会)より一部を抜粋し、さまざまな事例を元に、遺産分割協議の調整事例をご紹介します。

調整型にもかかわらず、紛争が顕在化した場合には・・・

前回の続きです。

 

今日は長男D男からの概要確認をしたが、二男E男の自宅持分の件は直接遺産とは関係がないので、とりあえず横においておく。それ以外は何とか調整型でいけそうな気がする。分け方も考えるとして、まずは見積書提示と契約書のサインをもらわなければ。

 

まず、遺産目録を基に分割案をいくつか作成して、それを相続人らにみせながら方向性を決めていこうか。

 

⑴委任契約書の作成

弁護士が事件を受任するにあたり、原則として弁護士報酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならない(弁護士職務基本規程30条1項本文)。調整型の場合、誰から署名押印をもらうべきだろうか。

 

もちろん、相続人全員からもらうことができればそれに越したことはない。しかし、実際には相続人が複数いる場合、全員から署名押印をもらうことが困難な場合もある。その場合には、相続人代表者名義でもらうことも1つの方法と考えられよう。

 

また、調整型の特徴として、紛争が顕在化した場合には辞任しなければならない。依頼者に再確認させる意味でも、これを特記事項として記載するのが望ましいであろう。たとえば、「本件は、円満に遺産分割協議が成立することを目的とするものであり、任意の遺産分割協議が不成立の場合(調停申立て等を含む)には、受任弁護士が委任契約を解除することができるものとする」などと記載するのも方法であろう(その場合の弁護士費用の取扱いも規定しておいたほうがよい)。

 

なお、弁護士費用の支払いについては、当事者の了解があれば必ずしも相続人全員が等分に負担しなければならないものではないから支払いは誰か1人が負担することもあり得る。しかし負担者のみの利益を尊重した遺産分割協議を行うべきでないことは当然のことである。

弁護士が分割案を作成、各相続人の意見を集約していく

⑵調整型遺産分割協議の進め方

調整型遺産分割協議の場合、進め方としては大きく2つの方法があるように思う。

 

1つは、最初に全員の意見を聞き、そのうえで遺産分割協議書案を作成する方法である。受任時または受任直後に相続人全員が一同に会する場がある場合(または各相続人の希望をすべて聞くことができる状況がある場合)はこの方法による。比較的少人数の場合には手っ取り早い。しかし、人数も多く利害対立が若干ある場合には、面談時に収拾がつかない状況に陥る可能性もある。

 

もう1つは、まず相続人中特定の人物から概要を聴取し、これを基に、弁護士が客観的に相当と判断しうる分割案を作成し、各相続人の意見を集約していく方法である。

 

この場合は、具体的な分割案を基に話を進めていくため、各相続人もイメージがつかみやすく意見を述べやすい。分割案を作成する場合、たとえば、①法定相続分で分けるとどうなるか(最もスタンダードな形)、②誰か1人が相続するなど極端な形(比較のための提示)、③その中庸をとって、ある程度特色があるが相続人が許容しうる程度の形(実際に分割協議として相当だと考え得るもの)の3つを提示するのも1つの方法である。

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    本連載は、2016年2月12日刊行の書籍『事例に学ぶ相続事件入門』から抜粋したものです。稀にその後の法律改正等、最新の内容には一部対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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