今回は、役員の横領疑惑を理由に行われた税務調査の事例を見ていきます。※本連載では、税理士法人鳥山会計代表・鳥山昌則氏の著書、『マル秘・実録 税務署との交渉術』(現代書林)の中から一部を抜粋し、節税・相続対策・不動産投資などに関する、税務署との交渉・対応術を具体例を用いて紹介します。

税務調査は犯罪調査ではない

最近税務署では、銀行や郵便局の口座の動きから税務調査に入ることが、多くなっているように感じます。

 

本件は、衣料品の販売を行っている店舗に、国税局を交えた税務署員の数名が突然、税務調査にやってきたという事案です。当日、私は別の税務調査で、また当該法人が遠隔地にあるため携帯電話でやりとりをし、すぐに帰ってもらいました。

 

担当した役員が翌日の調査を約束していたため、急きょ私も、翌日の別の税務調査を鳥山会計担当者に任せて、朝5時に起床し、新幹線に乗って駆けつけました。

 

まず、管轄が国税局ではなく税務署であり、任意調査であること、国税局職員は応援者であることが判明し、少し安心しました。社長とも携帯でやりとりし、社長も事情があって遠隔地にいるため、調査には立ち会えないということで税務調査が始まりました。

 

私が国税局の担当者に呼ばれ、急に来た理由があることを告げられました。

 

それは、法人の役員(今回臨場している役員です)が商品の横流しをしている疑いがあるというものでした。それも個人名、全く別の人の銀行の口座へ入金があるということなのです。当然、その口座の名義人に一番疑いがあるため、その人に聞き取りをした結果、当該法人と役員の名前が浮上してきたというのです。しかも、銀行へ行ってビデオを見てきたので、引き出しているのは、当該役員で間違いないというのです。

 

役員は頑なに否認しており、実際、そのようなことをするタイプではないのです。

 

私の脳裏に、「税務調査は犯罪調査ではない」という「質問検査権」の3項が浮かびましたが、ビデオまで見てきた3人もの調査官が間違いないというのですから、信憑性があります。社長が指示していて会社ぐるみとなれば、本当に悪質です。「私としては信じたいが、本当のこと、真実を話してください」と、役員を促すしかありませんでした。

 

結局、役員1人が社長に内緒で商品在庫をバッタ屋へ売却していたのです。動機は、役員個人の借入の返済に不安があったためで、きっかけは、バッタ屋から「秘密で商品を買いますよ」という趣旨のハガキがたまに届いていたことです。

 

事実を認めてからは、役員も私も税務署職員も比較的友好的になり、どうやって税務署の上司に理解してもらえるデータを作るかということで協力することになりました

税務署の「寛大な処置」で税額が半分に!?

実は、その会社は、今回の件とは別に大きな問題を抱えていました。この問題が波及することを恐れたのです。私としては、1日精一杯協力して終了させたかったのです。ちなみに出張も大変で、朝から晩までで疲れます(笑)。

 

やはり「見ていないところがいっぱいあるのでもう1日」と言われ、私は、「半日午後から」と粘りました。その結果、「2週間後、半日13時から17時までで終了」としてもらうことにしました(税務署員が10人来てもOKということで)。

 

まず、社長と当該役員との間で信頼関係の修復を図り、2週間の間に書類の不備を直してもらいました。当日は、税務署員3人で調査をし、役員賞与、未払決算賞与が問題になりましたが、これに時間を費やし、時間切れです。さらに大きな問題の発覚はなく、税務調査終了となりました。

 

役員賞与についても、相当に寛大な処置をしてもらい、社長には喜ばれました。ちなみに当該役員は首がつながり、会社に与えた損害については、重加算税を含めて返済するということになりました

 

税務署の「寛大な処置」とは、〝役員賞与〞ではなく〝貸付金〞としてもらったこと。これによって、税額を半分にする効果をもたらしました。認定利息2%はつけましたが、これでも役員賞与の場合の税金総額を約半分にできました。

 

税務署内では、税務調査が適正に行われているか相当にチェックが厳しいようで、昔のように、なあなあでうまく済むことは少ないようです。問題が上に上がってしまうと〝滅多〞に減額するのは難しいので、現場(統括官までの)段階で〝火消し〞をしておく必要があります。

 

いつも思うのですが、「命の次に大切なお金についての税務調査は、泣き笑いのドラマ」です。

 

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