日本へ働きに来るミャンマー人の「仕事観」とは?

本連載では、日本ミャンマー支援機構で約300社の海外進出のサポートを行ってきた日本人アドバイザー・深山沙衣子氏の著書、『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋し、ミャンマー人の国民性や彼らのビジネス慣習などを紹介します。

ディズニーランドには興味がない!?

日本人学生が企業に就職を希望する場合、やりたい職種のほかに、どのような条件で企業選択をしているかご存じでしょうか。「2016年卒マイナビ大学生就職意識調査(※)」によると、「安定している会社」が26.3パーセント、以下、やりがいや社風とともに、「福利厚生の良い会社」と回答した学生が12.4パーセントにのぼったそうです。

 

「福利厚生の良い会社」の項目として、住宅手当や家族手当のほかに、従業員向け保養施設の充実や、レジャー施設との提携が挙げられていました。とりわけ提携レジャー施設として人気なのは、東京ディズニーリゾートなのです。

 

1983年の開園以来、「夢と魔法の国」として人気を誇る、東京ディズニーリゾート。東京ディズニーランドと、後から開園した東京ディズニーシーは、学生の修学旅行先としても有名で、子どもからおとなまで、熱狂的なファンが尽きません。老若男女、国籍を問わず楽しめる東京ディズニーリゾートですが、日本で働くあるミャンマー人にとっては、そこまでありがたい場所ではないようです。

 

農業系の日本法人で、ミャンマーから技能実習生、いわゆる研修生を受け入れたときのエピソードを紹介しましょう。

 

法人職員は、よかれと思い、東京ディズニーランドの観光プランを組みました。日本人であれば喜んで満喫したでしょう。しかし、ミャンマー人研修生たちは、素直に喜べなかったようです。その理由は数日後、ミャンマー人研修生たちが突然「転職」したことで判明します。ごく普通の経営者は、「なぜだ」と首をひねることでしょう。せっかく、日本にやってきた研修生たちに楽しんでもらおうとしたのに、喜ぶどころか逃げてしまったのですから。

 

しかし、ミャンマー人を夫に持つ私からすれば、何も不思議なことではありません。彼らが日本にやってきたのは、「稼ぐ」ためです。自国のミャンマーで十分な収入を得ることができないから、遠い日本にやってきました。東京ディズニーランドで遊ぶことより、1円でも多く稼ぎ、ミャンマーの家族に送金するほうが重要なのです。

 

日本の経営者の粋な計らいを、日本人は嬉しく感じる人が多いと思いますが、今よりも勤務日数が増えても稼ぎたいと思っているミャンマー人研修生には、ディズニーランドでの「リフレッシュ」と「労働」の選択肢を与えられた場合、多くの研修生が「労働」を選ぶでしょう。

 

今回のケースは、日本法人側の好意よりも、今よりも稼ぐこと、つまり転職を優先したわけです。逃げた研修生に罪悪感がないわけではありません。心を痛めてでも、稼がねばならない理由があり、より稼げる会社に移りたいだけです。

 

日本と海外では物価や賃金が違います。生まれ育った国が違えば、生活水準が異なります。生活水準が異なれば、就学率にも差が出てくるため、学びたくても日常生活を送るのが精一杯で、学費の捻出まで至らない人が世界にはたくさんいます。特に健康な若者は重要な「労働力」となり、いち早く働き手として社会に出なければなりません。こうなると、学業どころではありません。そうした国が多いのが、現状です。

元研修生が何度も「難民申請」を繰り返す理由

経済の停滞が続く現状を打破すべく、何とか渡航費を捻出して日本にやってくる外国人労働者がいます。その入り口として、3年間の技能実習生制度を利用して来日してくる、いわゆる「研修生」が存在します。動機はそれぞれですが、研修生の根底にある願いは自分が豊かになることに加え、自国や、自国で待つ家族のために稼ぐことです。

 

しかし、研修生として日本に滞在できるのは原則3年間。そこで、長期滞在し、比較的高収入を狙える都心部で働くために、研修先から逃げて難民申請をして3年の期限を延長しようとする人がいることも事実です。日本では難民申請をしても、認定までに厳しい審査があるため、難民として迎え入れられることは容易ではありません。それでも、難民申請後半年の就労許可を得れば、国外追放を免れます。

 

2015年秋に法務省入国管理局は、明らかに難民でない人が同じ難民申請を繰り返した場合、複数回の申請で就労を認めない基本計画を策定しました。しかし、難民申請から認定決定まで、2年以上はかかります。この数年間を稼ぐ時期と考えると、この制度を利用し、何度も難民申請を繰り返す「元研修生」の存在もあながち理解不能なものではありません。

 

難民申請の仕組みや研修制度についての賛否はそれぞれあるでしょう。しかし、外国人労働者だけが悪いわけではありません。治安維持の問題から、外国人労働者の受け入れに後ろ向きな姿勢を示す、日本政府の建前と本音も無視できないのです。高齢化が進む事業や、労働者の確保が難しい3K労働の担い手として、研修生などの外国人労働者に頼らなければならないのが本音ではないでしょうか。

 

日本側も国として、外国人労働者を受け入れる制度を整える課題が残されています。ミャンマー人だけでなく、外国人労働者と交流しながら経済発展を目指すには、このような現実問題も知っておかなければなりません。そして、外国人を喜ばせたいと思ったなら、外国人それぞれの国民性を理解しなければなりません。彼らが何のために日本で働くのかを理解すれば、どうすれば彼らに喜んでもらえるのか、答えが出しやすくなるでしょう。

 
(※)参照:新卒採用人事担当者のための採用支援サイトマイナビ採用サポネット「2016年卒マイナビ大学生就職意識調査」(http://saponet.mynavi.jp/enq_gakusei/ishiki/)

本連載は、2016年4月30日刊行の書籍『ミャンマーに学ぶ海外ビジネス40のルール』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

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連載ミャンマー人と「ビジネス」をするための基礎知識

日本ミャンマー支援機構 日本人アドバイザー

1979年東京都生まれ、神奈川県で育つ。
立教大学文学部心理学科卒業。
大学卒業後、マレーシアの国営企業日本支社で勤務。その後広告代理店、出版社勤務を経て、フリーライターになる。
2011年、ミャンマー人の難民として日本に来た男性(当時40歳)と結婚。
2012年4月にミャンマー支援機構を起業。ミャンマー人の日本におけるトータルサポート(就職・留学・法的手続き・書類作成・仕事紹介・住居紹介・観光案内)、日本企業や日本の行政機関のミャンマー進出及びサービス提供を行う。
現在までに、日本・ミャンマー・韓国・シンガポール企業などのサポートにおいて、300社の実績がある。

著者紹介

ミャンマーに学ぶ海外ビジネス 40のルール

ミャンマーに学ぶ海外ビジネス 40のルール

深山 沙衣子

合同フォレスト

双方の歩み寄りが未来を開く! 異文化地域とのビジネスは言葉以上のカルチャーショックだらけ。 この一冊に相互理解のヒント満載。 ミャンマーを中心に約300社の海外進出のサポートを行ってきた著者が明かす、円満海外ビジネス…

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