今回は、相続人間の不公平を是正する「特別受益の持ち出し」について見ていきます。※本連載は、池田税務会計事務所の代表税理士の池田俊文氏の著書『50歳からの相続・贈与の本』(駒草出版)の中から一部を抜粋し、大切な家族と財産を守るための相続や贈与に関する法律知識や税金知識を幅広く紹介します。

生前に贈与された財産を「遺産の前渡し」とみなす

長男は、事業資金として父から生前3000万円の資金援助を受けていました。このように父から生前贈与や遺贈など特別な利益を受けた法定相続人がいる場合、これらを考慮しないで単純に法定相続分で相続財産を分配し計算すると、不公平な結果となります。

 

そこで、生前に贈与でもらった財産は遺産の前渡しとみなし、相続財産にプラスして相続分を計算します。こうすることで、生前に財産をもらった人とそうでない人との相続人の間の不公平を是正しようとするのが、特別受益の制度です。

結婚時の持参金や留学費用も対象に

父親の相続財産が1億円、相続人は長男と長女の2人の場合、この相続財産1億円を単純に2分の1で計算すると長男は父から生前事業資金として援助してもらった3000万円と合わせて8000万円の財産をもらったことになります。長女の相続財産は5000万円です。長女が納得すればよいのですが、内心穏やかでないかもしれません。

 

このように特別に財産をもらった場合、この財産を調整する計算方法として、長男がもらった3000万円を相続財産に加算して相続分を計算することにしています。これは、長女の気持ちに配慮するためで、これを「特別受益の持ち戻し」といいます。この持ち戻した3000万円は、最終的には相続財産から差し引いて計算します。

 

事業資金以外にも住宅購入資金、結婚時の持参金、留学費用などが持ち戻しの対象となります。なお、持ち戻しの対象者は相続人だけで、相続権のない兄弟姉妹は除かれます。

 

【図表1 特別受益者がいる場合の相続分の計算例】

 

【図表2 持ち戻しの対象となる主な財産】

遺言があれば「特別受益の持ち戻しの免除」も可能

被相続人が遺言で、特別受益の持ち戻しをしないという意思表示をしていれば、その意思表示に従うことになります。これを「特別受益の持ち戻しの免除」といいます。

 

【図表3 特別受益に関する遺言書の書き方】

本連載は、2015年12月17日刊行の書籍『50歳からの相続・贈与の本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

50歳からの相続・贈与の本

50歳からの相続・贈与の本

池田 俊文

駒草出版

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