前回は、タイで「通貨危機」に直面した筆者が取った対応を紹介しました。今回は、筆者の経営する会社がどのようにして「リーマンショック」を乗り越えたのか、その詳細を見ていきます。

今までに経験したことのない業績の落ち込み

タイから戻った私は3年間営業本部長を務めたのち、2002年、35歳で代表取締役に就任しました。7年目の2008年、再び私は大きな「苦境」に立たされることになりました。「リーマンショック」です。

 

世界経済がどん底に突き落とされた煽りを受けて、私の会社でも取引先からの発注が極端に減りました。

 

ことに自動車業界の売り上げは惨憺たるものでしたが、もう一つの柱である家電業界は生活に欠かせないものですから、下げ止まりは早く、それでも3割から4割は売り上げ減となりました。2008年の前半は、売り上げが半減してしまうのではないかと思えるほどでした。

 

いままで経験したことのない業績の落ち込みに社員もどうしたらよいかわからないという状況に陥りました。当時は会社全体が、この会社はどうなってしまうのだろうと不安に包まれていましたが、いま、振り返るとこの苦境が、新たな事業への礎となったのです。

徹底した経費削減が生み出した、予想外の効能

経営者なら誰でも、社員をリストラしたいとは思いません。私は徹底的なコストカットでこの場を乗り切ろうと考えました。

 

まずは大きなウエイトを占める人件費にメスを入れることにしました。

 

これまで私の会社は開発先行型でしたので、営業部門も開発部門も、取引先から出された課題を持ち込み、自由に、昼夜、平日・休日も問わず、仕事に取り組んでいました。365日、ほぼいつでも誰かが社内にいる。そんな状況だったのです。そのため残業代だけでも年間6300万円計上されていました。

 

社会全体が不況のさなか、営業に出ても仕事はとれないのだから、残業はしない、させないようにして、残業時間を50%削減することを目指しました。

 

そのほかにも休日出勤や20時以降の勤務を禁止し、やむを得ない場合は、稟議申請するというルールを制定し、管理職に厳しく徹底させました。また、どうしても不規則になる営業部門や開発部門に関しては、高度経済成長時代の仕事が多い時に制定したままになっていた、みなし労働時間も含めて見直し、時差出勤制度を導入しました。

 

これらの施策により人件費だけで年間3680万円の経費削減を目標にしました。

 

また、旅費交通費の削減、就業時間後の消灯やエアコンの停止のほか、就業時間中でも会議室や研究室の電気をこまめに消したり、クーラーの温度調節を高めに設定したりということを社員に周知しました。

 

さらに、年間700万円かけていた交際費を50%削減するなどしたのです。社員も本来の仕事ではなすすべもない中で、とにかくいまやれることはやろうと、私のケチケチ作戦に賛同してくれ、全社一丸となって、2009年度には5727万円の削減をはたしました。

 

当たり前ですが、こうした経費削減による効果はそのまま、純利益に直結します。私の会社のように社員数100名程度の企業にとっては、大きな効果を与えます。

 

[図表]削減項目案(2009年経営企画資料より)

 

また、並行して儲けの陰に隠れていた、赤字商品の洗い出しも行いました。それまで長い間主力商品で国内シェアの90%を獲得していたオートバイのマフラー用の塗料は、競合が参入し、商品として値崩れしていましたが、その結果、この事業から撤退する企業が相次いで淘汰が進み、私の会社がほぼ市場を独占している状況でした。

 

この塗料がなければマフラーは完成しません。750℃まで耐える耐熱塗料の性能は他社では真似できないものです。そこで私たちは取引先をまわって、この商品の本来の価値に近い値段で引き取っていただけるように交渉を始めました。

 

もっと早くからこうした交渉をするべきだったのですが、取引先のニーズに応え、つくりさえすれば売れるという高度経済成長期時代の経営感覚はなかなか拭えず、ほかの商品で儲けが出ていれば、品目ごとの収支はそれほど重要ではないという甘えがあったのです。

 

しかし、このリーマンショックという逆境が、のちの新事業や低成長時代への体質改善という大きなチャンスを与えてくれたのです。

本連載は、2016年10月14日刊行の書籍『世界トップシェアを勝ち取った田舎の小さな工場の奇跡』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

世界トップシェアを勝ち取った 田舎の小さな工場の奇跡

山中 重治

幻冬舎メディアコンサルティング

日本の製造業は成熟期を迎え、国内市場は縮小しています。大手メーカーは海外に市場を求め、海外での現地生産を加速していますが、海外に拠点を持たない国内の中小企業は、生き残りをかけた熾烈な競争を余儀なくされています。…

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