(※写真はイメージです/PIXTA)

トラウマケアなどに使われている自律神経の学説「ポリヴェーガル理論」は、自分や他者のマネジメントを推し進める上でも非常に有用です。同理論では自律神経の状態を「アクセル」「急ブレーキ」「緩やかなブレーキ」の3つに整理しています。同理論を用いて、自分やメンバーの心身がどの状態にあるかを観察し、受け入れること。この習慣が、マネジャーの負荷を軽減しつつチームで成果を上げていくことに役立ちます。白井剛司氏の著書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

ポリヴェーガル理論とは?>>【関連記事】ビジネスパーソンの間で話題 「逃げるべき場面で“凍りつく”ワケ」を医学的に説明した理論

心身の状態を「観察」するには?

~自律神経の「3つの状態」を「色」に置き換えるとわかりやすい(図表1)

 

前回までの内容を整理すると、「観察」では、まず最初に赤・青・緑の3色のうち、今の自分や他者の状態は何色のモードかを感じ、次にそのときの身体感覚・思考・感情に集中して丁寧に、気づけるところを観察していきます。そして、これを繰り返します。特に自分の状態に気づく際、その状態を自ずと「受け入れる」ことになります。慣れてくると、3色のモードを介さずとも身体感覚・思考・感情にダイレクトに気づく機会も増えてくるでしょう。

 

出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)
[図表1]ポリヴェーガル理論 身体の3色のモード 出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)

 

加えて、赤・青・緑のモードには、それぞれに連なって生じていく身体感覚・思考・感情があります。ここでは簡単な紹介にとどめますが、たとえば赤のモードは自分が動くことによって、目の前の相手や状況をコントロールして、自分の何かを守り安心したい、というモードです。身体感覚としては、全身がこわばったり、呼吸や心拍数が早くなり、感情は焦りや恐れ、怒りなどが立ち上がります。青のモードでは、疲れて一人になりたい、どうにもやる気が出ないという消極的な感情が浮上し、身体には力が入らず、だるさ、重さなどを感じたりします。

 

モードと身体感覚・思考・感情は連動しているため、赤のモードの際に、笑顔を浮かべながら怒ったり、青のモードでいるときに冗談を言いながら楽しそうに笑ったり、緑のモードでくつろぎながら人に辛辣な言葉をかけたりするのは困難です。

 

また、3色のモードと身体感覚・思考・感情は、自分の意志で生み出しているように感じるかもしれませんが、実際は、身体主導の反応(自動反応)です。私たちは何か繰り返し同じ失敗をしたり、うまくいかないことがあると、自分の思考や性格の問題だと自罰的になったりするのですが、実際には身体の反応が起点になっています。考える以前に始まっていることが多いのです。

 

さまざまに述べてきましたが、一番お伝えしたいことは、私たちは自分と他者の身体の反応・思考・感情に気づき、その状態を受け入れることができれば、ベストな状態を保ちやすくなり、問題やストレスが山積する状況を変えていけるということです。

【職場での実践例】部下との対話でイライラしたら…

ここで、実際に職場でどう観察を活かせるのか、少しだけご紹介しておきましょう。

 

たとえば、ある日、あるメンバーと2人で打ち合わせしながら、自己を観察する場面。最初は、最近あったことなどの雑談から始めて、冗談を言うなど打ち解けた時間を過ごしました。身体のモードは緑の、リラックスした状態が続いています。しかし、中盤で相手のある発言がきっかけとなって自分の中で身体感覚・思考・感情が変わっていくのがわかりました。緑から赤へと急展開のモードチェンジです(図表2)。本来穏やかな態度で過ごすべきところを、過去の、その人とのちょっとした出来事が引っかかって、疑いの気持ちや怒りからイライラが生じたことに観察を通じて気づきました。

 

出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)
[図表2]3色のモードと入れ替わり 出所:白井剛司著『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)

 

このような場合、いろいろな対処の方向性がありますが、この後、どうするのが適切と思われるでしょうか?

 

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A 不快な思いを相手にぶつける(あるいは、表には出さずに冷静・論理的に相手を攻撃する)

 

B 頭の中で相手を批判したり、攻撃したりする(表面的には冷静に振る舞って打ち合わせを続ける)

 

C 信頼すべきメンバーだからと、負の感情や思考を抑える(過去のことでイライラしている自分を内心責めながら、打ち合わせを続ける)

 

D 不快な思いやイライラしている自分に気づき、受け入れる(そんな思いやイライラを自分は今、しているんだなあ、と感じる)

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まずAの、露骨に不快な態度、攻撃的な態度を取って前から引きずっていたストレスを相手にぶつけるという人は、本稿をお読みの方にはいないでしょう。これは赤のモードをそのまま体現してしまった、という状態です。身体にとっては自然なことではあるものの、メンバーとの関係性がこじれてしまいます。攻撃的な態度を前面に出さずに、冷静で論理的に相手の意見や主張をはねのけた場合も、表立ったトラブルには至りませんが、相手が不快に感じていたら後に警戒されたり距離を置かれたりすることになるでしょう。

 

B「頭の中で批判・攻撃」を選んだ場合、これ自体は悪いことではありません。しかし、表情や身体、呼吸の状態などから態度が漏れ出て、相手に伝わってしまう可能性が高いでしょう。

 

心優しいマネジャーは、Cの「抑える」を無意識的に選ぶかもしれません。しかし、Cもある種、自分の気持ちを抑圧した状態であり、ストレスが蓄積されていきます。長い間この状態を続けると、相手との関係や他の事象に悪影響が出てしまう可能性が高いです。

 

よって、残るはDの「受け入れる」です。本書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』の視点では、こうした姿勢を取ることが大切です。今の自分が経験している状態に気づいて受容する。それだけでいいのです(図表3)。不思議に思われるかもしれませんが、この選択・態度によって、AやBのように怒りが漏れ出ることはありませんし、Cのように溜め込むこともなくなります。

 

[図表3]自己観察によって刺激からの影響をコントロールできる

3色のモードで捉えれば、「内面で起こっている状況」がわかる

すべては自分のモードが何色かに、観察によって気づくことから始まります。

 

私は長年、組織の人材育成やマネジャー支援に携わってきましたが、相談を受けて話を聴く際などに、この3色のモードで捉える考え方を用いると、その人や組織が置かれた状況が手にとるようにわかり、相手の考えていることも言い当てることができて、とても納得してもらえた経験があります。自分の状況の理解のみならず、第三者の話を聴いて、当事者の心や身体の状態を想像する上でも、大きな助けになるのです。

 

 

【著者】白井 剛司

株式会社ロッカン 代表

IMA MBSR(マインドフルネスストレス低減法)認定講師

Transform LLC. セルフマネジメント認定講師

 

【監修】

八谷 隆之 株式会社D・M・W 代表、作業療法士

吉里 恒昭 株式会社D・M・W 理事、臨床心理士

 

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※本連載は、白井剛司氏の著書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。

部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める

部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める

白井 剛司(著)
八谷 隆之(監)
吉里 恒昭(監)

日本能率協会マネジメントセンター

業績目標達成や部下育成に加えて、リモートワークでのマネジメント、ウェルビーイング、エンゲージメント向上等々…。現代のマネジャーは、一昔前のマネジャーよりも対応すべきイシューが多く、かつてないほどに忙しい状況に追…

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