「節税効果が高くて人気ですよ」の言葉に要注意…養老保険の福利厚生プランに潜む「落とし穴」【経営者専門FPが解説】

「節税効果が高くて人気ですよ」の言葉に要注意…養老保険の福利厚生プランに潜む「落とし穴」【経営者専門FPが解説】
(写真はイメージです/PIXTA)

法人(企業)が従業員の退職金の準備として、養老保険の「福利厚生プラン」を活用することがあります。企業が受け取った満期保険金は従業員の退職金に充てられるとともに、条件を満たすと保険料の2分の1が経費として損金に算入されるという、法人側にとっての「税金面のメリット」もあります。しかし、導入の際にはさまざまな注意点があることを知っておく必要があります。本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が、相談事例を基に注意すべきポイントを解説していきます。

養老保険を使って従業員の退職金積立をしたい

ある日のこと、過去に税金対策での生命保険契約を多数取り扱った医療法人の理事長から、「ご無沙汰しています」とメールが来ました。相談したいことがあるとのことで、数年ぶりに訪問することに。この医療法人の概要は以下の通りです。

 

〈法人概要〉

業種:医療法人

従業員:350名

相談者:理事長/50代・男性

医業収益:12億円

〈備考〉

平成19年の医療法改正で、出資持分のある医療法人の新規設立ができなくなる直前に設立。ここ数年で介護系施設を増やしており、規模が拡大

養老保険を使った「福利厚生プラン」導入のポイント

理事長の相談は、「ここ数年で職員がかなり増えたので、退職金制度を検討している。養老保険を使って法人での“課税繰り延べ”をしつつ、従業員の退職金積立を行いたい」という内容でした。

 

累計の保険料が数億円にもなる税金対策での生命保険契約を取り扱ってきた経緯があるだけに、目的が税金対策であることに特段驚きはありませんでした。そこで、まず理事長に対して、以下の4点について説明をしました。

 

(1) 対象者は原則として全職員になるが、入職後一定期間を経過した職員だけを対象にすることは可能。ただし、保険対象者が全職員の過半数以上になるようなルールにしなければ福利厚生制度としての普遍性が担保できず、税務否認されるリスクがある


(2) 保険期間は原則として退職年齢(65歳)を満了年齢にする。医療・介護職は離職率が高いので、保険期間を長くすると途中で退職した場合に返戻率が上がっていおらず、損をする可能性が高い


(3) 保険金額は弔慰金として常識的な金額(100万円~300万円程度)にしておくべきだが、そうすると保険期間と保険金額を考えてもあまり保険料は高額にならず、税金対策としての効果は限定的になるが、それでも良いのか?


(4)上記のことを考えると、養老保険を使った福利厚生プランで退職金積立制度を導入してもメリットが出しにくい。純粋に退職金積立を検討するのであれば、各種共済制度などの公的制度を活用したほうがよい。ただし、そもそも退職金制度がない現状で、退職金制度をつくることは将来の退職給付債務を背負うことになる。法人運営上、正しい選択なのかを検討すべきである

 

これを聞いた理事長から、「実際にウチで養老保険を契約した場合、年間保険料はどのくらいになりますか?」という質問をされました。そこで、ざっくりと以下のように説明しました。


「詳細な設計をしないと分かりませんが、イメージとしては、職員の平均年齢が35歳で65歳定年ですと保険期間は30年。保険金額を300万円にする、と一人当たりの月額保険料は8,400円くらいになると思います。それを350名のうち80%の280名で契約したとすれば、月額保険料は約210万円。年間で2,520万円の保険料になり、2分の1の1,260万円が損金として計上できるイメージです」

 

理事長は「年間1,260万円の損金が作れるのであればそれほど悪くはないですね」とまんざらでもない表情でした。そのため、次のように釘を刺しました。

 

「損金額としては確かにそうです。ただ、先ほどご説明したように、早期退職するとかなり返戻率が悪い状態で中途解約することになります。なので、積立効果としては損をするだけです。損金だけでいうのであれば、全職員を対象に月1万円の掛金で共済に加入すれば、月間350万円で年間4,200万円の損金が作れます。ただし共済のデメリットは、医療法人の口座から引き落としされた瞬間に掛金は職員さんのものになりますから、法人で積立金は活用できませんが…」

 

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