「病院が少ない街は、住民が長生き」って本当!?…ウッカリするとだまされる〈統計のまやかし〉【経済評論家が解説】

「病院が少ない街は、住民が長生き」って本当!?…ウッカリするとだまされる〈統計のまやかし〉【経済評論家が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

統計は、さまざまな事実を明らかにし、気付きを与えてくれる、大変興味深いデータです。しかし、ときにはデータを読み誤った「トンデモ理論」が出現することもあり、うっかりしているとだまされてしまいます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「アイスの売上増=水難事故多発」→アイスの販売禁止…!?

統計の数字を調べると「アイスクリームが売れる日は、水難事故が多い」ということが見えてくるかもしれません。

 

しかし、仮にそのような統計があっても「水難事故を防ぐため、アイスクリームの販売を禁止しよう」などと考えてはいけません。アイスクリームの販売が水難事故の原因となっているはずがないからです。

 

「A氏」にとてもよく似ている「B氏」がいたとします。しかし、2人がいくら似ていても、「A氏がB氏の親」だとは限りません。逆に、「B氏のほうがA氏の親」なのかもしれませんし、「A氏とB氏はきょうだい」かもしれません。あるいは「たまたまよく似た他人同士」という可能性もあるでしょう。

 

冒頭の例では、気温が高い日にアイスクリームが売れる一方で、水遊びをする人も増えるので水難事故も増える、ということでしょうから、たとえるなら、気温が「親」で、「アイスクリーム」と「水難事故」はきょうだい、といった関係になります。

 

世の中には、AとBが似た動きをすると「AがBの原因だ」などと短絡的に考える人が少なくありませんが、因果関係をしっかり見極めることが重要なのです。

財政赤字が減った国ほど、経済成長率が高い!?

世界中の国を調べると、「財政赤字が減った国のほうが経済成長率が高い」ということが起きているかもしれません。筆者は「経済成長率が高い国は景気がいいので、税収が増えやすい。だから財政赤字が減りやすい。〈経済成長率=親〉で〈財政赤字=子〉だ」と考えています。

 

もっとも、財政再建論者に言わせると、「政府が緊縮財政で財政赤字を減らすと、政府の借金が減るので需要と供給の関係から金利が低下する。そうなると、民間企業が借金をして設備投資をするようになるから経済成長率が高まる」という理屈も成り立つのかもしれません。

 

本当にそうしたことが起き得るのか否か、筆者にはよくわかりませんが、仮に財政再建論者が「だから日本も財政再建を頑張って経済成長率を高めよう」などと言い出した場合には、直ちに反論します。なぜなら、日本はすでに金利がゼロであり、財政再建をしても金利は下がらず、経済成長率も高まらないからです。

警察官が多い街ほど、犯罪が多発する!?

警察官が多い街は犯罪が多い、ということは大いにありそうです。ひとつには、犯罪が多い街は警察官を増やすからです。犯罪が少ない街は税金を公園等に使うでしょうから、結果として犯罪の数と警察官の数は比例しがちです。

 

「犯罪の数=親」で「警察官の数=子」ですね。したがって、いかなる財政再建論者も「犯罪を減らすために警察官の数を減らそう」などと言わないでいただきたいものです。

 

もうひとつ、大きな街は犯罪も多いが警察官数も多い、ということがいえるでしょう。「人口=親」で「犯罪数&警察官数=きょうだい」というわけですね。

 

状況を明確にするためには、すべての街について「人口1,000人あたりの犯罪数と警察官数」を計算し、それを比較する、といった手法を検討すべきでしょう。

株価が景気の先行指標といわれる理由

どちらが原因でどちらが結果なのかを考える手段のひとつとして、「先に発生したほうが原因かもしれない」という発想は重要です。もっとも、それで判断を誤る可能性もあるので、要注意です。

 

「株価は景気の先行指標」だといわれます。「株が下がると、数ヵ月後に景気が悪化する場合が多い」というのです。可能性としては、株で損をした投資家が節約するようになるので景気が悪化する、ことも考えられますが、従来の日本では個人が持っている株は少なかったので、そうしたことが頻繁に起きていたとは考えにくいでしょう。

 

多くの場合、人々が景気の悪化を予想すると株を売るので株価が下がり、人々の予想が当たって数ヵ月後に景気が悪化する、ということが起きているのでしょう。たとえば米国でリーマン・ショックのようなことが発生すると、日本の株価は直ちに下がりますが、実際に景気が悪化するのは数ヵ月後のことでしょうから。

 

「子が親より先に生まれる」ことも起こり得るわけですね。

病院が多い街は病人が多く、病院が少ない街はみんな長生き!?

「病院数が多い街ほど入院患者が多い」ということも、あるかもしれません。

 

ひとつには、病院数が多いと空きベッドが増えるので「医師が患者に不必要な入院を勧める」ことが考えられます。

 

多くの真面目な医師に失礼ではありますが、もし少数の医師がそうした行動をとれば、統計的には「病院が多いほど入院が多い」ことになるわけです。「供給が需要を作り出す」などと悪口を言う人が出てきそうですね。

 

もっとも、実際に多そうなのは「病気がちな人は病院の多い街に引っ越すが、健康な人は病院の少ない街に住み続ける」という因果関係でしょう。

 

それなら「病院の少ない街のほうが、人々は長生きする」という統計が出てくるかもしれません。そんな統計が出てきたとしても、「病院は命を縮めるから、病院を減らそう」などと考えてはいけません。陰謀論者や極端な財政再建論者がそんなことを言い出しても、決して同意しないように気をつけましょう(笑)。

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義
経済評論家

 

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