子のない叔父の遺産は、遠方・過疎地の〈山林・畑・ボロ住宅〉…横浜在住の相続人12人、壮絶な押し付け合いの地獄絵図【弁護士が解説】

子のない叔父の遺産は、遠方・過疎地の〈山林・畑・ボロ住宅〉…横浜在住の相続人12人、壮絶な押し付け合いの地獄絵図【弁護士が解説】
(※画像はイメージです/PIXTA)

少子高齢化が社会問題となっている日本ですが、シニア層には多くのきょうだいを持つ人たちが珍しくありません。しかし、自身のきょうだいは多いが子どもがない…という方が亡くなり、相続が発生すると、相続人たちはとてつもなく大変な思いをすることになります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

叔父の遺産は「わずかな現金」と「活用不可能な地方の不動産」

80代で亡くなった叔父の相続が発生したが、相続人との話し合いが膠着状態になっている。相談者は60代の甥で、亡くなった男性の一番上の姉の長男。

 

亡くなった男性は20年前に妻を亡くして以降、ひとり暮らし。子どもはいないため、相続人はきょうだいとなるが、きょうだいはすべて死去しているため、きょうだいの子どもである甥姪が相続人となる。

 

亡くなった男性は5人きょうだいの3番目。

 

長女(死去)…子ども4人

二女(死去)…子ども2人

長男(該当の男性)…子どもなし

二男(死去)…子ども3人

三女(死去)…子ども3人

 

相続人は合計12人の甥姪となる。

 

叔父は遺言書を残していなかった。また、相談者の一族はもともと代々横浜市在住だが、亡くなった叔父は配偶者の出身地である中国地方に暮らしていた。遺産はおよそ150万円の現金、ボロボロの住宅、畑、山林。

 

相談者の男性は、自分と同じ相続人の立場にあるいとこたちに声をかけたが、遺産の内容を聞いて連絡が取れなくなる人、そもそも疎遠で連絡先がわからない人もいるなど難儀している。また、相談者の男性の祖父母の相続時にひどく揉めたという背景があったことから、いとこの間でその感情が持ち越され、相談者の男性が八つ当たりされるなどしてやり取りにひどく疲弊している。

 

相談者は、不動産は自分が相続したうえで売却し、相続人で均等に分割しようと考えているが、協力的な態度を見せる人はわずかで、収拾がつかない事態となっている。

近年増加傾向にある「貧乏リスク」含みの相続問題

弊所に持ち込まれた相談事例のひとつですが、同様のケースは近年非常に増えています。

 

お子さんがいない方の相続の場合、相続人は親ですが、親がすでに亡くなっている場合はきょうだいとなります。事例のようなご高齢の方の場合はきょうだいが亡くなっているケースも多いので、その場合は甥姪まで相続人になります。

 

近年の日本は少子化が問題となっていますが、いまのシニア世代はまだきょうだいが多く、4人、5人ぐらいは一般的で、なかには10人きょうだいといった方もいらっしゃいます。

 

そのような場合、遺言書を残さずに亡くなると、その後の処理にもすごい手間と費用がかかってしまうのです。

 

今回のように、相続人が多く、しかも相続財産の大半が地方の不動産物件の場合、とくに問題になりやすいといえます。 一般的には、司法書士にサポートを依頼して手続きを進めるのですが、連絡が取れない相続人、また、遺産の額について不平不満を強く訴える相続人がいると、司法書士だけでは対処できなくなってしまいます。

 

そうなると、われわれ弁護士が引き取り、裁判に持ち込んで強制的に解決するという流れになります。

 

ただし、それなりの遺産額があればいいのですが、今回のケースのように相続財産が少額となる場合、決着がついても資産的にはマイナス、ということもしばしばあります。ちなみに事例の件は、幸い裁判の流れとはならず、相続人の同意を得て着地しました。

 

これまでは、不動産が放置されることは多くありました。結果、所有者不明土地が増え続けて問題となった結果、 令和6年4月1日から、相続登記の申請が義務化されることになりました。

 

(1)相続(遺言も含みます。)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。

 

(2)遺産分割が成立した場合には、これによって不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、相続登記をしなければなりません。

 

(1)と(2)のいずれについても、正当な理由(※)なく義務に違反した場合は10万円以下の過料(行政上のペナルティ)の適用対象となります。

 

なお、令和6年4月1日より以前に相続が開始している場合も、3年の猶予期間がありますが、義務化の対象となります。不動産を相続したら、お早めに登記の申請をしましょう。

 

(※)相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の資料収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケースなど。

 

出所:東京法務局ウェブサイト

 

つまり、不動産の名義を書き換えないことが罰則対象になるわけですが、不動産のエリアによっては、大変厳しい状況になる可能性もあります。例えば、以前はそれなりの価値があったものの、過疎化が進んで地価が大きく下落しているようなところです。地方はもちろんですが、かつては通勤圏として開発が進んだ郊外にも、同様の状況に陥るエリアが増えていくでしょう。

 

対処法としては、弁護士という筆者の立場からしても、遺言書一択といわざるを得ません。

 

遺言書がなければ、今回ご紹介したケースのように、相続人全員を対象にして話し合いを進めなければなりません。世代交代が進めば相続人は増えていきますし、高齢化が進展するなか、重い病気や認知症を患い遺産分割協議への参加ができない相続人や、海外在住で簡単に連絡がつかない相続人がいるかもしれません。

 

できることなら、公正証書遺言の作成が理想ですが、お金かけたくないのであれば、自筆証書遺言でもかまわないので「相続人のうちのだれか1人にすべてを相続させる」という内容で作成しておきましょう。お子さんがいない相続に限っていうなら、それ1枚あるだけで、遺留分はまず発生しないため、速やかに解決できることになります。

 

地方の価値の低い不動産を保有しており、なおかつ現預金がないといった状況にある子どものいない方が、万一なにも手を打たずに亡くなると、相続人全員が大変なマイナスを受け、いうなれば「相続貧乏」な状況に陥ってしまうリスクがあります。

 

ご自身が該当する場合は、その点をよく検討し、早めに対策を取っておきましょう。

 

また、同様の状況にある親族がいる方の場合も、相続人同士でリスクへの認識気を共有し、遺言書の作成を促すなどして、未然に問題を防ぐことが重要です。


 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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