多くの不動産を保有する資産家高齢男性が、自分亡きあとの相続について家族に提案したところ、妻と娘たちから激しく反発され、頭を抱えています。なぜ妻と娘が怒るのか、男性はさっぱり理解できなかったのですが…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

地主の男性、妻と娘2人に背を向けられて困惑

今回の相談者は、80代の井上さんです。自分なきあとの相続について言及したところ、家族が対立して収拾がつかなくなってしまったと、筆者の事務所へ相談に訪れました。

 

井上さんは地主の出身で、多くの不動産を所有しています。人気の高い駅のそばにも5階建てのビルを所有するなどして、かなりの収益を得ています。

 

しかし、不動産収入だけで生活しているわけではなく、所有するビルの1階で長年酒屋を経営し、近隣の飲食店とも仕事を通じて親しく付き合ってきました。

 

井上さんの家族は、同い年の妻、50代の長男、40代の長女と二女がいます。子どもたちはいずれも結婚していますが、長男家族は酒屋を経営しているビルの2階に住まわせ、井上さん夫婦は少し離れた広い一軒家に暮らしています。長女と二女は隣県のマンションに暮らしています。

 

「私も80代になりまして、仕事を引退してからしばらくたちます。それで、今後のことを考えて遺言書を残そうと思いまして…」

 

井上さんは「相続について自分の思いを共有したい」といって、ある日曜日に家族を集合させました。

 

「ところがですよ。話を始めたら妻と娘2人がめちゃくちゃ怒ってしまいましてね。私と息子は呆然ですわ。飼い犬も怯えて洗面所の奥に引っ込んでしまいました。しかし、娘たちがあれほど強欲とは…」

 

「妻は長女のところに行ってしまい、帰ってきません。連絡も取れないのですよ。いまは長男の嫁が、毎日3食食事を運んでくれて、掃除や洗濯もしてくれます。妻のせいで、本当に申し訳ない…」

 

大切な資産を着実に承継させるため、家族の心がひとつになるよう、相続の話し合いをまとめてほしい、というのが井上さんのご要望でした、

 

そこで筆者は、打ち合わせに同席した税理士とともに、井上さんに相続人の概要と、遺言書の具体的な内容を聞きました。

 

「相続人は、妻、長男、長女、二女の4人です。遺言書の内容は〈全財産を長男に相続させる〉という、極めてシンプルなものですが…?」

 

筆者と税理士は思わず絶句しました。

「妻は先がないし、娘2人はよその人間ですよ?」

井上さんは怪訝な顔をしつつ説明を続けます。

 

「財産ですが、酒屋をやっているビルのほか、敷地面積が100坪の自宅、隣駅のスーパーに貸している駐車場、マンションです。あとは、不動産収入から得られた預貯金が5,000万円ぐらいです」

 

「遺言書を準備しておかないと、跡取りが大変だと思いまして。妻は私よりは長生きするでしょうけれど、同い年ですから先がありませんよ。どうせすぐ相続になるでしょう? 娘は名字が変わってよその人間ですよ?」

 

同席した税理士は井上さんに、現在の資産状況なら相続税の納税が必要になる可能性が高いこと、配偶者に資産を相続させて特例を活用すれば節税が可能になること、いまはきょうだい平等が原則であり、嫁いだ長女・二女にも長男と同じ相続の権利があることなどを、丁寧に説明しました。

 

今度は井上さんが絶句しました。

 

「…そうなの!?」

 

井上さんには、もう一度家族と話してもらいうこと、全員の意見を聞いたうえで再度打ち合わせを行うこと、次回の打ち合わせでその結果を報告してもらうことを約束して相談を終えました。

遺産相続の考え方にも、アップデートが必要

1ヵ月後、再び打ち合わせの機会を持ちました。

 

「妻と娘たちに〈遺言書の件、内容を改めるからもう一度相談しよう〉と連絡をしたところ、集まってくれました」

 

それにより、再度の打ち合わせが実現しました。

 

「遺産分割をどうしたいのか、それぞれ希望を聞いてみることにしました。妻は私が死んでも生活を変えたくないということで、自宅と預貯金を希望しました。娘は収入が入る不動産がいいということで、それぞれ駐車場とマンションがほしいそうです。息子はいまの店が入っている駅ビルと、母親が亡くなったあとの自宅がいいということでした…」

 

井上さんは、家族から相続について希望が出てくることを、まったく想像していなかったそうです。

 

「私の父親の相続のときには、長男がすべてを相続するのは当然で、ほかの家族は口を挟まなかったのです。その代わり、家族に何か問題が起きたら、私が手助けしたり、資金援助したりしてきましたが…。いまは時代が違うのですね」

 

長男はあまり欲がないのか、妹たちの意見をウンウンと聞き、あっさり引き下がったそうで、井上さんはその姿勢を見て衝撃を受けたそうです。一方で、何品もの料理を作って自宅に通ってくれた長男の嫁は、その後一切顔を見せなくなってしまいました。

 

「しかたないのでしょうね…」

 

井上さんは、残された課題解決として納税資金の確保をしたいので、税理士に引き続き相談をしたいと希望されました。

 

その後、家族の意見を反映させた公正証書遺言が完成し、まずは円満な着地となりました。

 

「妻も自宅に戻ってくれました…」

 

と、安堵の表情を見せてくれました。

 

代々の地主や農家の場合、いまなお家督相続の考え方が承継されていることもあります。相続人全員が納得すればいいのですが、今回の井上さんの家族のように摩擦が起きる可能性も十分あります。

 

いまの時代、きょうだいの立場は対等で平等です。もちろん、同居や介護等の負担がある場合は、相続発生前からしっかり話し合うのが理想ですが、はなから「長男だから全部相続する・させる」という姿勢では、円満な着地など望むべくもないでしょう。

 

もうひとつ注意が必要なのが、相続人間同士の平等にこだわった結果の不動産の共有です。相続直後は問題がなくても、相続人の生活環境の変化や代替わりが起こると、権利関係が複雑化し、将来のトラブルの種になる可能性が極めて高くなります。この点も踏まえたうえで、相続対策をすることが望まれます。

 

 

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続が運営するサイトに掲載された相談事例を転載・再編集したものです。

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