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交渉や説得したい相手から「イエス」を引き出すためには、いつ、どのように、どんな語りかけをしたらよいのか?……イェール大学経営大学院助教のゾーイ・チャンス氏が、行動経済学や社会心理学、交渉術などの研究に著者自身の経験を交え進化させてきた、「影響力」に関する人気講座から生まれた著書『影響力のレッスン──「イエス」と言われる人になる』(早川書房)より、一部抜粋して紹介します。

世界を救った「ノー」

世界を救った言葉は「ノー」でした。いえ、より正確には「ニェット(нет) 」でした。

 

モスクワ近郊にあるソビエト連邦軍の秘密司令部、セルプホフにサイレンが響きわたり、画面には「発射」の文字が点滅しました。それは1983年9月26日の真夜中過ぎのことでした。同国の早期警報システム「オコ」(Oko:ロシア語で「目」の意味)が、核弾頭を搭載した5発の大陸間弾道ミサイル「ミニットマン」が、アメリカからソ連に向けて飛来していることを検知したのです。

 

当直を務めていた将校スタニスラフ・ペトロフは当然、どう対応すべきか心得ていました。ただちに受話器を手に取り、ミサイル攻撃について上層部に報告するのです。

 

ミサイルが目標地点に到達する前に対応策を決めるために残された時間はわずかでした。しかも、同国の報復方針は核兵器による総攻撃を命じていました。すなわち、第三次世界大戦の勃発です。

 

しかしペトロフは、何かがおかしいと訴えていて、彼には落ち着いて考える時間が必要でした。ペトロフはITの専門官で、開発段階からオコシステムにかかわってきました。おまけに、このシステムは配備されたばかりだったのです。これは誤報ではないか? 

 

システムは、この警報の確度が高いことを示していましたが、監視衛星の運用担当者は視認できていませんでした。雲が多いせいだろうか? そうかもしれない。しかしペトロフは、ミサイルの数がなぜこれほど少ないのかとの疑問を拭えませんでした。アメリカが先制攻撃をしかけるときには、報復の余地を残さず、ソ連の殲滅(せんめつ)を狙うだろうと、彼は繰り返し聞かされていました。たった5発ではなく、何百、何千ものミサイルが撃ち込まれるはずなのです。

 

ときはおりしも冷戦の絶頂期で、緊張状態が高まっていました。また、このわずか数週間前には、ソ連防空軍が大韓航空007便を偵察機と誤認して撃墜し、搭乗者全員が死亡するという事件が起きていました。この誤認はまさに悲劇でした。

 

しかし今回間違いを起こせば、その代償は想像を絶する規模になるでしょう。スタニスラフ・ペトロフには、攻撃が事実なのか誤報なのか、判断がつきませんでした。警報発令時の対応についての命令を確認し、それに従った場合にかならず生じる事態について検討しました。その結果、ペトロフは上官へ報告せよという命令に「ニェット」を突きつけたのです。

 

23分後、ミサイル攻撃のなかったことが明らかになると、ペトロフは安堵のあまりへたり込みました。彼はのちに、あの晩、同僚の誰かが当直任務についていたら、きっと警報について報告し、人類は絶滅の危機に瀕していただろうと語っています。

 

攻撃の応酬による直接の犠牲者は、2億人──アメリカとソ連の全人口の40%──に達したと推計されています。それに加えて核の冬によって世界中の農業が壊滅的な打撃を受け、20億人もの餓死者が出ただろうと見積もられています。

出発点は「ノー」

世界がこのような瀬戸際に立たされたときでなくても、「ノー」が命を救うこともあります。

 

ノーと言えないせいで諸事に忙殺されてしまう。あるいは、ノーと言われたくなくて、必要以上に慎重になったり、頼みごとをしづらくなったりする──その結果、無難な行動に終始しながら、ひどく気疲れしてしまう。おまけに、ノーと言う試みを始めるまで、ほとんどの人はノーを言おうとしないこと自体が問題なのだと気づきもしないのです。

 

というわけで、「ノー」が私たちの出発点となります。

 

 

ゾーイ・チャンス

イェール大学経営大学院助教

 

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影響力のレッスン: 「イエス」と言われる人になる

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ゾーイ・チャンス

早川書房

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