(※写真はイメージです/PIXTA)

正しく納税していても「もっと払うべきなのに、隠していますね?」とばかりにやってくる税務調査。税務当局のリソース(人員、時間)には限りがあるため、調査は狙いを定めて重点的に行われます。どのような点が目に留まるポイントとなるのでしょうか。※本記事は、OWL Investmentsのマネージング・ディレクターの小峰孝史弁護士が監修、OWL Investmentsが執筆・編集したものです。

国税庁「所得税及び消費税調査等の状況」の「主な取組」で明示

税務当局が力を入れている分野は、毎年11月に国税庁が発表する「所得税及び消費税調査等の状況」内の「主な取組」に記載されています。「この分野は気をつけているから、納税者の皆さんも悪いことはしないように」と警告しているのだと捉えるべきでしょう。

 

2023年11月22日に発表された最新版によると、主な取組として記載された項目は、以下の6つです。

 

①富裕層に対する調査状況

②海外投資等を行っている個人に対する調査状況

③インターネット取引を行っている個人に対する調査状況

④無申告者に対する調査状況

⑤消費税の還付申告者への調査状況

⑥所得税の不正還付申告書の課税処理の状況

 

ここでは、①~③を中心に見ていきましょう。

取りやすいところを調査→「富裕層に注力」という構図

1番目の項目「富裕層に対する調査状況」については、

 

「1件当たりの申告漏れ所得金額は、3,331万円となっており、所得税の実地調査全体の1,456万円に比べ、昨年同様2.3倍となっています。また、申告漏れ所得金額の総額は、過去最高だった昨年をさらに上回り980億円に上ります。」

 

という記載に注目です。

 

要は、だれを相手に調査するのも手間はあまり変わらないが、調査して得られる金額は富裕層相手の方が大きいため、富裕層相手の調査に力を入れる…という、現実的な判断です。

 

この「取りやすいところを狙う」という戦略は一貫しています。

 

富裕層のなかでも海外投資等を行っている富裕層について、

 

「1件当たりの追徴税額は1,068万円で、所得税の実地調査全体の274万円に比べ3.9倍となっています。」

 

とあることから、海外投資を行っている富裕層は、とりわけターゲットとされていることが読み取れます。

 

出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
[図表1]富裕層に対する調査の状況(左)/海外投資等をした「富裕層」に対する調査の状況 (右) 出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」

「海外投資」は税務当局がとくに目を光らせる分野

ロジカルシンキングの基本概念に「MECE」という言葉があります。「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字を取った言葉で、直訳すると「互いに重複せず、全体として漏れがない」という意味です。「項目分けをする際にはMECEに気をつけなくてはいけない」などといわれています。

 

ところが、この国税庁の「主な取組」の構成は、「①富裕層に対する調査状況」のなかで富裕層の海外投資について言及し、「②海外投資等を行っている個人に対する調査状況」として、項目1つを使って海外投資に言及しているわけですから、MECEになっていません。

 

しかし、この項目分けを非論理的だと笑うのは早計です。むしろ、税務当局が海外投資にいかに目を光らせているかの現れとして見るべきです。

 

税務当局の情報収集能力が近年大幅に上がったことも、海外投資の分野が重点的に調査されるようになった一因だといえます。

 

10年くらい前までは、海外の銀行で口座を開設し、意図的に資産を隠そうとしていた人も少なくなかったと聞きます。

 

しかし、国際機関OECD主導で作られ、2018年から情報収集がスタートした「自動的情報交換制度」など、税務当局もさまざまな武器を持つようになりました。このテーマについては、記事『〈富裕層に迫る課税の網〉保有する海外金融資産の情報「税務当局に筒抜け」は本当か?…「自動的情報交換制度」の真実でも論じていますので、ご一読ください。

狙われるのは、ネット上の高額取引が多い「暗号資産投資」

3番目の項目「インターネット取引を行っている個人に対する調査状況」は、「(1)シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」「(2)暗号資産(仮想通貨)投資」の2つに分けられています。

 

しかし、2021年11月発表分までは、項目のタイトルが「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」となっており、暗号資産取引はこのなかのひとつという扱いでした。

 

その暗号資産投資が、2022年11月発表分から、サブカテゴリーの1つに格上げになったのです。

 

格上げされただけあって、暗号資産投資は1件当たりの摘発金額が高額です。「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引」で、1件当たりの追徴税額は320万円、追徴税額の総額は42億円であるのに対し、「暗号資産取引」では、1件当たりの追徴税額は1,036万円、追徴税額の総額は64億円となっています。

 

出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
[図表2]シェアリングエコノミー等新分野の経済活動に係る取引(調査状況)(左)/
暗号資産(仮想通貨)等取引(調査状況)(右)
出典:国税庁「令和4事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」

 

では、暗号資産取引について、税務当局はどのように情報収集をしているのでしょうか。

 

日本国内の暗号資産取引所は金融庁に登録されていますから、これらを通じて行われている取引については、税務当局も情報を入手できるはずです。

 

一方、海外の暗号資産取引所を通じて行われている取引については、情報収集は簡単ではないと思われます。

 

また、ビットコイン以外の暗号資産(アルトコイン)のなかには、LINEなどでグループを作り、グループの中で購入していったものもあります。そうしたコインについては、摘発した脱税者からグループメンバーの名簿を入手して摘発していっているようです

 

※ 日本経済新聞「仮想通貨で一斉税務調査 14億円申告漏れ、グレー節税も」(2021年10月3日記事)

 

この文書を読むと、国税庁みずから脱税を摘発する意志を強く示していることが、ひしひしと伝わってきます。納税は国民の義務、しっかり果たしていきましょう。

 

 

小峰 孝史
OWL Investments
マネージング・ディレクター・弁護士

 

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