(※写真はイメージです/PIXTA)

ロシア・ウクライナ問題に加えてイスラエル・パレスチナ問題が再び顕在化し地政学リスクが高まるなか、金融市場への影響が懸念されます。こうしたなか、世界の投資マネーは「米国」に集まっていると、アライアンス・バーンスタイン株式会社シニア・インベストメント・ストラテジストの穂谷栄一郎氏はいいます。いったいなぜこのような動きが生まれるのでしょうか、みていきます。

世界の投資マネーは「米国」に集まる

――いまのような状況で、世界の投資マネーはどこに向かうのでしょうか?

 

穂谷「米国が優位となると予想されます。有事にドルが選好される過去の様子とは異なりますが、消去法的に米国資産が選択されるのではないでしょうか。

 

米国は、世界の株式市場の国別比率の6割ほどを占めますが、中国は不動産で債務を抱え、ロシアや中東は紛争により地政学リスクを高めているため、世界の投資マネーはこうした地域や国の投資比率を引き下げようとする傾向にあります。

 

さらに、先進国内でも、英国や欧州の景気悪化は米国より深刻です」

 

――たしかに、比較的に安心できる投資先は米国や日本、インドくらいではないでしょうか。しかし、そうであれば、世界の情勢が落ち着くまでは、株式投資を避けようと考えるかもしれません。

 

穂谷「そうですね。しかし、インフレが顕在化しているいま、現金をそのまま置いておくのは資産価値が毀損するため、おすすめできません。たしかに、米国の株式に投資するうえで消費や雇用の減速は気になるでしょうが、半面、米国内での投資は大幅に増えているのです」

 

成長を牽引する「無形資産」と「設備投資」

穂谷「特に成長を牽引するのはソフトウェアや知的財産といった無形資産です。米国の設備投資について、項目別にその動きを指数化したグラフを見るとよくわかります[図表2、左]。

 

さらに注目していただきたいのが、米国内での生産拡充を目的とした機械、装置等の設備投資です。米国ではサプライチェーンのグローバルな拡大で長らく低迷を続けてきましたが、ここにきて国内回帰を強めています。

 

これは地政学リスクの高まりはもとより、中国との技術覇権の争いや経済安全保障の強化によるもので、まさに地産地消が進んでいます。

 

米国では製造拠点の拡充が進み、インフラ関連の公共投資も活発化し、近年では、過去最高の水準です[図表2、右]。世界が混沌とするなか、米国は着々と国内投資を進めています」

 

*期間:2000年1-3月期~2023年1-3月期。2000年1-3月期を100として指数化。**2010年1月~2023年7月 出所:リフィニティブ、AB
[図表2]米国の項目別設備投資の伸び*/米国の公共投資の推移 *期間:2000年1-3月期~2023年1-3月期。2000年1-3月期を100として指数化。**2010年1月~2023年7月
出所:リフィニティブ、AB

 

国家戦略となっている「半導体の確保」

――なるほど、多くの製造業が国内に回帰している模様ですね。とりわけ半導体の確保は国家戦略となっていますね。

 

穂谷「はい、そのとおりです。米国は中国に対抗するため、友好国との生産供給網の構築、いわゆるフレンドショアリングを進めています。グローバルサプライチェーンは米国や欧州を中心に見直しが図られています。日本を含めた関係各国では、産業政策として半導体へ国家予算を割いており、強固なサプライチェーンが築かれようとしています」

 

――地政学リスクの高まりが、むしろ米国への投資の呼び水になっている構図です。

 

穂谷「はい、米国株と世界株のパフォーマンスを比較すると米国の堅調さが際立っているのがわかります[図表3]。今後も引き続き、こうした傾向は変わらないかもしれません」

 

過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。 期間:1987年12月末~2023年6月末。1987年12月末を100として指数化。月次ベース。米ドルベース。配当込。米国株式はMSCI米国指数、世界株式〈除く米国〉はMSCIオールカントリーワールド〈除く米国〉指数。 出所:ブルームバーグ、 AB
[図表3]米国および世界株式(除く米国)の株価推移 過去の実績や分析は将来の成果等を示唆・保証するものではありません。
期間:1987年12月末~2023年6月末。1987年12月末を100として指数化。月次ベース。米ドルベース。配当込。米国株式はMSCI米国指数、世界株式〈除く米国〉はMSCIオールカントリーワールド〈除く米国〉指数。
出所:ブルームバーグ、 AB

 

――ありがとうございました。今回のお話からは、地政学リスクが金融市場を崩壊させた歴史はないという前提に立ち、むしろ現在のような地政学リスクの高まりは米国の経済安全保障を進め、国内投資を活発化させる可能性があるということ。

 

加えて、関係各国の半導体に関わる産業政策は米国にとって追い風となり、米国への投資魅力が増していきそうだということがわかりました。

 

<<<【AB’s Market Tips】#8 やっぱりアメリカ?地政学からみた投資先とは>>>

 

 

穂谷 栄一郎

アライアンス・バーンスタイン株式会社

運用戦略部/責任投資推進室 シニア・インベストメント・ストラテジスト

 

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※本稿は、「【AB’s Market Tips】#8 やっぱりアメリカ?地政学からみた投資先とは」を参考に、再編集したものです。詳細については当該動画をご覧ください。

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当資料は、2023年11月2日現在の情報等を基にアライアンス・バーンスタイン株式会社が編集した資料であり、いかなる場合も当資料に記載されている情報は、投資助言としてみなされません。当資料は信用できると判断した情報をもとに作成しておりますが、その正確性、完全性を保証するものではありません。当資料に掲載されている予測、見通し、見解のいずれも実現される保証はありません。また当資料の記載内容、データ等は作成時点のものであり、今後予告なしに変更することがあります。当資料で使用している指数等に係る著作権等の知的財産権、その他一切の権利は、当該指数等の開発元または公表元に帰属します。当資料中の個別の銘柄・企業については、あくまで説明のための例示であり、いかなる個別銘柄の売買等を推奨するものではありません。

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