(※画像はイメージです/PIXTA)

自民党の宮沢税制調査会長は11月8日、退職金への課税の見直しを10年~15年後から始めるのが望ましいとの見解を示しました。政府は6月に「骨太の方針」で退職金への実質増税の方針を示しており、もし10~15年後に実現するならばいわゆる「就職氷河期世代」が定年退職する時期にあたります。本記事では、現行の退職金への課税制度の概要を紹介したうえで、政府の方針の中身と、指摘されている問題点について解説します。

「骨太の方針」の2つの問題点

しかし、これには、2022年10月に政府税制調査会で提起された当時から、以下のような問題点が指摘されてきています。

 

1. 「退職所得の税制優遇制度が転職の妨げになる」という因果関係が明らかでない

2. 退職所得課税の制度趣旨との整合性に問題がある

 

◆問題点1|「退職所得の税制優遇制度が転職の妨げになる」という因果関係が明らかでない

まず、「退職所得の税制優遇制度が転職の妨げになる」という因果関係が明らかでないというものです。

 

サラリーマンが転職する理由の多くは、以下の2つのいずれかに集約されます。

 

・キャリアアップ・給与アップを望んでいる

・職場の環境や人間関係に不満がある

 

いずれにしても、ストレスを感じてでも現職場にとどまって退職金の税制優遇を受けるより、早く転職してよりよい待遇、あるいは環境を獲得するという選択肢をとることは十分にありえることです。

 

したがって、現行の退職所得の税制優遇制度が転職の妨げになるという因果関係自体、必ずしも明らかとはいえないという指摘があります。

 

◆問題点2|退職所得課税の制度趣旨との整合性に問題がある

第二に、退職所得課税の制度趣旨との整合性の問題が指摘されています。

 

すなわち、前述したように、退職所得が税制上優遇されている理由は、退職金が在職中の給与の後払い的な性格をもつこと、退職後の生活資金となることから、税負担を軽減すべきということにあります。

 

特に今後、高齢化の進行により老後が長くなっていくことが予測され、かつ、年金の給付水準が維持されるかどうかも不透明です。したがって、退職金の老後資金としての重要性は、今後、ますます増大していくことになります。

 

この状況の下で実質的な増税を行うとすれば、退職所得課税のそもそもの制度趣旨との整合性が問われるという指摘があります。

就職氷河期世代の退職時期に「見直し」がされる?

これらの問題点が指摘されたこともあり、政府の方針は、SNS等で「サラリーマン増税」などと多くの批判を受けました。また、昨今は物価高が国民の生活に重くのしかかっています。そんななかで、政府・与党は、2024年税制改正では退職金課税の見直しを行わない方向で調整に入っていました。

 

今回の自民党の宮沢税制調査会長の発言は、退職金課税の見直しを10年~15年後に行うことが望ましいというものです。10年~15年後といえば、ちょうど、いわゆる就職氷河期世代が定年にさしかかる時期にあたります。就職氷河期世代は、学校を卒業しても正社員として就職できず、しばらく非正規雇用で働かざるをえなかった人が多いなど、それ以前の世代と比べ、老後資金の準備に不安を抱えている世代です。したがって、もし、10~15年後に退職金の優遇税制を見直すことになれば、この世代がまた犠牲になる可能性があります。

 

なお、政府税制調査会も、決して意見が完全に一致しているわけではありません。たとえば、会長である租税法学者の中里実氏(東京大学名誉教授)が、「長期的な人生設計の前提となる制度の安定性というのは一定程度重要だ」と指摘しています。

 

政府・与党および国会には、上述の問題点を踏まえたうえで、慎重かつきめ細かな議論を行うことが求められています。

 

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