(※写真はイメージです/PIXTA)

2022年11月の「ChatGPT」発表以降、多くの業界において、生成AI(GenAI)を通じた意思決定・問題解決・創造プロセスに革命が起きつつあります。ここでは、M&Aのディールメイキングのあらゆる段階において、生成AIが及ぼす影響と、その可能性を見ていきます。※本記事は、Datasite日本責任者・清水洋一郎氏の書き下ろしです。

AIの台頭で、M&A業界にも革命的な変化が生じる

ユーザーの問いかけに対して文章や視覚、ときには音声で応答を生成する人工知能(AI)ですが、だれもがアクセスできるようになったことで、ビジネスリーダーや研究者ばかりでなく、ごく普通の人々までもが虜になりました。

 

AIは2兆米ドルの投資機会となるとともに、2030年までに約13兆米ドルの追加的な世界経済効果をもたらす可能性があると予想され、実際にほぼすべての産業に影響を及ぼしています。

 

AIを使用すれば、担当者がより多くの情報に基づいた意思決定を、より迅速に行える可能性が高く、M&Aにおいても、すでに取引の流れ、デューデリジェンス、プロセス、そして全体的な価値創造に革命をもたらしています。

ディールメーカー、AIの利用で重要な業務へ注力できるかたちに

AIは、取引の進め方に大きな影響を与えると考えられます。AIが反復的な作業を自動化し、リサーチとデータ分析を強化し、ディールの全フェーズにおけるプロセスの助けになることで、効率が上がり、データ主導の意思決定がより簡単に行えるようになります。

 

また、効率化によって関係者間の関係を緊密にするだけでなく、最も重要な、潜在的な買い手と取引全体の結果の予測ができるようになります。

 

たとえば、投資銀行のアナリストが潜在的な投資家や買い手によるレビューのため、何千もの書類の分析・整理・分類をおこない、それに何週間も費やすとしましょう。しかし、AIを搭載したツールなら、この作業を数秒でこなし、何千ものファイルを消化・整理する方法を再定義すると同時に、人的ミスを減らし、よりよい規制遵守を保証するようになるのです。

 

しかし、これは必ずしもデューデリジェンス・プロセス全体の時間が短くなることを意味するわけではありません。生成AIによる情報の分類と抽出により、ディールメーカーは、デューデリジェンスの準備と実施に時間をかけるなど、最も重要なことに時間とリソースを割けるようになります。

高性能な削除ツールで、個人情報にまつわるリスク管理も容易に

AIに関してのもうひとつの例として、個人情報の削除があげられます。個人を特定できる情報(PII)を保護し、GDPR(EU一般データ保護規則)、CPRA(カルフォルニア州プライバシー権法)、APP(Application software)などのプライバシー規制に準拠することは、M&Aでは必須です。

 

また、戦略上・商業上の機密データも削除が必要です。しかし、個人名や会社名、物理的住所や電子メールアドレス、通貨、口座情報などを文書から探し出すのは時間がかかり、ミスも起こりやすいといえます。

 

優れたAIベースの削除ツールは、削除の可能性を提案するだけでなく、削除する語句のリストを数秒で作成することもできます。削除される前にそのリストをレビューし、確認できるため、リスクやエラーをさらに減らすことができます。

リサーチのサポートとしても有益

生成AIベースの分析は、ディールリサーチのサポートとしても利用できます。関連性が高く、新しく、実行可能なデータからなるリサーチの結果は、取引の可否を左右するものです。

 

リサーチは、潜在的な買い手の特定と関与、ニッチ市場のマッピング、変化する市場状況の把握、買い手の履歴の理解、さらにはピッチデッキの磨き上げなど、初期段階から始まります。生成AIを使用すると、ディールチームの構築に必要な分析のスピードと精度を高めることができます。

AIがデューデリジェンスとリスク管理を強化

そもそも取引は大きな賭けであり、タイムラインも非常にタイトであり、品質管理がカギとなります。文書が不完全、あるいは理解しにくいものであれば、取引自体がリスキーなものとなってしまいます。

 

一方、生成AIを使ってキーワードや語句を検索すれば、潜在的なリスク要因、重要な条項、重要な義務を素早く特定することができます。人力で数日、数週間かかっていたものが、AIの使用によって数秒、数分、数時間に短縮され、より正確なディリジェンス・レビューを低コストで行える可能性があります。

 

生成AIは、リスク管理の改善と精度を高める機会を提供してくれます。リスクの発見は干し草の山から針を探すようなものですが、ディールメーカーがその針が何であるか、またその影響に確信が持てない場合、生成AIの機能により、一見しただけではわからない、重大なリスク要因を突き止めるケースが増えるでしょう。リスク要因となるものは、期限切れの特許から競業避止義務条項まで、あらゆるものが考えられますが、生成AIは自然言語スマート分析等によって、高い精度でリスク要因を検出し、カテゴリー、優先度、相場の状態等に分類することができます。

ディールメーカーとAIのパートナーシップ

生成AIのメリットは広範囲に及びますが、プロセスから人間を排除するものではありません。AIによるテクノロジーの可能性を最大限に発揮させるために、ディールメーカーのスキルが求められることも見逃せません。一方でAIのテクノロジーはまだ初期段階にあるため、データのセキュリティと機密性、信頼性、文脈の理解を考慮し、評価する必要があるでしょう。

 

しかし、AIによってディールプロセスのボトルネックが解消、もしくは縮小されるため、ディールメーカーは取引を成立させる作業に時間や思考を集中させることができるといえます。

 

 

清水 洋一郎
Datasite 日本責任者

 

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