相談者が父の遺産を整理していると、父が北海道に原野を持っていたことが分かりました。ほぼ無価値の土地について、相続人はどのように対処すべきでしょうか。本稿では、弁護士・相川泰男氏らによる著書『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋し、特殊な不動産の評価に関わる方法や無価値不動産の相続における対処法について解説します。

無価値不動産の相続における対処法

父が亡くなり、遺産の整理をしているのですが、遺産の中に北海道の原野があることが分かりました。他の相続人は、原野はほぼ無価値なので、お金で欲しいと言っています。

 

紛争の予防・回避と解決の道筋

◆農地や山林は、一般的な宅地と異なり、客観的指標に乏しく評価が複雑になる場合が多い。税理士や不動産鑑定士等の専門家に評価を依頼する際も、宅地の評価より費用が高額化する傾向がある

◆相続した土地が不要な場合は、一定の要件を満たせば、国庫に帰属させることができる

◆相続財産に不動産が含まれる場合、相続を知ってから3年以内に相続登記をしなければ、相続人に罰則が科される。遺産分割協議が3年以内にまとまらない場合等3年以内の相続登記が困難な場合は、同期間内に、相続が開始したことなどの申出をする必要がある

 

チェックポイント

1. 特殊な不動産の評価に関わる費用および方法について各相続人の意思を確認する

2. 無価値不動産に対して取り得る処分方法について各相続人の意思を確認する

3. 不動産について相続登記を行う期限に留意する

解説

1. 特殊な不動産の評価に関わる費用および方法について各相続人の意思を確認する

(1)不動産の評価について

土地や建物などの不動産は、「一物五価」等といわれ、調べる評価目的等によって、評価額が異なることがあります。

 

例えば、相続税や贈与税の算定は相続税路線価が、不動産取得税の算定は固定資産税評価額が基準となります。遺産分割の場面でも、路線価や公示価格等の指標を基準に合意するケースもあります。

 

しかし、遺産分割における不動産の評価は、実勢価格、すなわち、実際の取引ベースでの金額が基準となることが多いです。実勢価格の算定は、一般に不動産鑑定の専門家である不動産鑑定士により、国土交通省が定める不動産鑑定評価基準に基づき行われますが、不動産業者等から簡易的な実勢価格の査定を取得することもあります。不動産鑑定士による鑑定となると、それなりに費用・期間を要することも多いため、どこまで慎重・丁寧に不動産の評価を求めるか、誰がそのコストを負担するかも含めて、相続人間にて協議を行う必要があります。

 

(2)特殊な不動産の評価について

一般的に、登記簿上の地目が宅地の不動産は、公示価格や路線価等の客観的指標があるだけでなく、類似の取引事例も比較的豊富に存在する上、不動産鑑定士にとってもその実績が豊富な場合が多く、比較的容易に評価額を算定することができます。

 

一方で、地目が田や畑、山林、原野等の特殊な不動産については、宅地のように客観的指標が存在しない場合があるほか、類似の取引事例にも乏しいため、その相続税評価や実勢価格の鑑定評価に際して評価方法が複雑になり、専門家であっても、その評価に困難が伴う場合があります。

 

例えば、相続税の算定では、国税庁が、財産評価基本通達において、田や畑等の農地、山林、原野等の地目ごとに評価方法を定めており(評基通2章参照)、地目ごとに該当する地域の特性を踏まえて、比準方式または国税局長が定めた倍率を用いた倍率方式をもって評価をすることが求められますが、評価の基礎とすべき数値の選択には専門的判断が必要な場合があり、通常の宅地評価以上の専門的知見が必要となります。

 

また、農地や森林等、特殊な不動産には、不動産鑑定評価基準にのっとって鑑定を行うことができない、あるいは適切ではないものもあります(鑑定評価52参照)。

 

農地に関しては、公益社団法人日本不動産鑑定士協会連合会鑑定評価基準委員会が「農地の鑑定評価に関する実務指針」という一定の基準を公表していますが、農地と評価できる土地以外の不動産の鑑定評価に関する法律が適用されない不動産については、鑑定評価に関わる客観的な準則が存在しないのが現状です。

 

そのため、特殊な不動産について適正な評価額を算出するには、極めて専門的な知見が必要となり、その費用も高額になる傾向があります。そのため、特殊な不動産を相続するに当たっては、相続人間でこれらの事情を認識した上で、その評価方法および評価額についても、依頼する専門家の意見を尊重する等、相続人間においてあらかじめ意思を統一しておくことが肝要です。

 

本事例の不動産は、相続人のいずれも取得を希望しておらず、かつ、ほぼ無価値との認識が共通しています。そのような場合には、不動産の評価は無価値(0円)として遺産分割協議を進めていくのも一つの方法です。

 

他方、特殊な不動産の全てが本事例のようにほぼ無価値と評価されるわけではなく、林業を営んでいる山林や生産性の高い田や畑、再開発が見込まれる原野等、それなりに価値があると評価される場合もあります。

 

遺産に不動産が含まれている場合には、鑑定の要否を含めた慎重な検討が必要です。

 

次ページ2. 無価値不動産に対して取り得る処分方法について各相続人の意思を確認する

※本連載は、相川泰男氏らによる共著『相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイント-予防・回避・対応の実務-』(新日本法規出版株式会社)より一部を抜粋・再編集したものです。

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相続トラブルにみる 遺産分割後にもめないポイントー予防・回避・対応の実務ー

相川 泰男

新日本法規出版株式会社

◆遺産分割時やその前後に想定される具体的なトラブル事例を分類・整理しています。 ◆①発生の予防、②更なる悪化の回避、③適切な対応という視点で道筋を示しています。 ◆「チェックポイント」により、調査・確認、検討す…

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