アメリカで支払われた給料を日本で「課税」して欲しい…裁判所の判断は?【税理士が解説】

アメリカで支払われた給料を日本で「課税」して欲しい…裁判所の判断は?【税理士が解説】

所得税法における「居住者」を判定するための「居住地判定」。住所である生活の本拠がどこにあるかによって課税ルールも異なってきます。本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)より、事例をもとに税務に関わる居住地判定について、同氏が解説します。

居住形態の判定に関する裁判所の判断

1 日本に住所を有していたか否かは、日本から出国したという事実のみならず、その者の職業の有無及びその内容、その者の住居、その者と生計を同一にする家族の居住の状況、資産の有無等を総合的に判断して、その者が日本に生活の本拠を有していたと評価できるか否かによって決すべきである。

 

2 裁判所が認定した事実によれば、

 

①米国法人N社は、当初から原告の日本における経歴等に着眼し、原告が東京事務所の一員として活動することを予定していたと推認できるほか、原告とN社との雇用関係に関する合意の内容をみても、両者が雇用契約を締結するまでには、当初は米国において雇用されるものの、その活動はあくまでも日本国内を中心として行われることが期待されていたものであり、現に、原告は、平成13年8月に日本に入国してN社のための活動を本各化(ママ)させたと認められるほか、それ以前にも日本に頻繁に来日して、N社のため活動を行っていたと認められるのであるから、本件出国は、将来原告が再び日本で活動するまでの一時期、暫定的なものにすぎなかったと評価することが相当である(※下線筆者)こと、

 

原告の住居について、本件出国以後においても、当該住居は原告及び原告の家族のため従前どおり維持されていたというべき(※下線筆者)であり、原告も平成13年8月の再来日後はもとより、それ以前においても、原告の家族が出国して家財道具を米国向けに配送する以前には、来日した際には当該住居を自らの住居として利用していたことが認められること、

 

③原告は、本件出国にかかわらず、早晩日本に戻って当該住居で生活することを予定しており、その故に原告は平成13年6月にA校の理事長という要職に就任したものと理解することが自然というべき(※下線筆者)であること、

 

原告の家族は、本件出国後も平成13年6月、A校の学期が終了するまで、本件出国前の原告の住居において生活を営んでいた(※下線筆者)のであり、原告が扶養する家族の居住状況には本件出国後も何ら変動がなかったというべきであること、

 

⑤原告の家族は、平成13年6月、米国に向けて出国しており、原告らの家財も一旦米国ユタ州に配送されたことが認められるものの、原告とN社との雇用関係に関する合意内容をみると、原告の家族が再び日本に戻って生活することは当初から予定されていたとみるべきであり、現に、原告の家族は原告とともに、A校の新学期に合わせて、同年8月に日本に入国し、その後引き続いて当該住居で生活するようになったことから、当該住居における原告の家族の生活状況は、原告の本件出国後も何らそれ以前と変わりがなかったとみるべき(※下線筆者)であること、等の評価がなされる。

 

3 これら、原告とN社の雇用関係の内容、原告および原告の家族の入出国状況、本件出国前の原告の住居の利用状況等に照らすと、原告の生活の本拠は本件出国によってもなお原告の当該住居にあったと認められるから、原告は、本件出国後も、なお居住者に該当するというべきである。

 

調査に役立つ基礎知識

(中略)

 

(3)居住形態の判定の重要性

したがって、個人の納税者に関して、居住形態の判定を的確に行うことは適正な課税処分を実施する上で非常に重要な意味合いがあるものであり、外国籍を有する納税者、あるいは入出国を頻繁に繰り返している納税者、海外に居住する親族、特に配偶者を有する納税者等に対しては、最低限、その者の居住形態の判定に必要な資料情報は収集しておき、誤りのない判定を行った上、事後の訴訟等にも耐えうる証拠の蓄積を図っておく必要があります。(※下線筆者)

 

2 住所(生活の本拠)の有無の判定方法

意図的に住所が国外にあるとして申告してくる納税者や国の内外にわたって居住する場所を移動する納税者、配偶者が特段の理由もなく海外に居住している納税者等について、当該納税者の生活の本拠はどこにあるのか、国内にあるのか、国外にあるのか、その判定は非常に難しい場合が多いと思われます。

 

この点に関し、神戸地裁昭和60年12月2日判決は「所得税法の解釈適用上当該個人の本拠がいずれの土地にあると認めるべきかは、租税法は多数人を相手方として課税を行う関係上、便宜、客観的な表象に着目して画一的に規律せざるを得ないところ」とした上で、「客観的な事実、即ち住居、職業、国内において生計を一にする配偶者その他の親族を有するか否か、資産の所在等に基づき判定するのが相当である」と判示し、その控訴審である大阪高裁昭和61年9月25日判決、更にその上告審である最高裁第二小法廷昭和63年7月15日判決もその判断を支持しているところであります。

 

本件判決(東京地裁平成19年4月11日判決)においても、上記神戸地裁判決と同様の判断を示しており、すなわち、「日本に住所を有していたか否かは、原告が本件出国をしたという事実のみならず、原告の職業の有無及びその内容、原告の住居、原告と生計を同一にする家族の居住の状況、資産の有無等を総合的に考慮して、原告が日本に生活の本拠を有していたと評価できるか否かによって決すべきである」と判示しております。

 

このため、今後、課税処分を実施するに当たり、特定の納税者の生活の本拠がどこにあるかについては、住民登録や在留資格等といった単一の内容で判断することなく、上記判決が示すように、その者の職業、住居、家族の居住の状況、資産の所在地等を総合的に勘案して判断していく必要(※下線筆者)があります。

 

3 収集・保管すべき確認書類注)

本件を例にとって、「下記の裁判例の事実認定の真逆の「実態」を疎明する必要があります。シリーズ〈法人編〉の分掌変更でも否認された事例の「真逆の実態」について疎明すればよい、と検証しましたが、イメージとしてはそれと同様」を考慮すると下記が考えられます。

 

①米国法人N社は、当初から原告の日本における経歴等に着眼し、原告が東京事務所の一員として活動することを予定していたと推認できるほか、原告とN社との雇用関係に関する合意の内容をみても、両者が雇用契約を締結するまでには、当初は米国において雇用されるものの、その活動はあくまでも日本国内を中心として行われることが期待されていたものであり、現に、原告は、平成13年8月に日本に入国してN社のための活動を本各化(ママ)させたと認められるほか、それ以前にも日本に頻繁に来日して、N社のため活動を行っていたと認められるのであるから、本件出国は、将来原告が再び日本で活動するまでの一時期、暫定的なものにすぎなかったと評価することが相当である(※下線筆者)こと、

 

⇒・雇用契約、就業規則の確認

 就業実態 勤務先とどのような条件下で出国するのか、そもそも出国すべき必然性があったかに関する社内稟議書、メモ等々

 

②原告の住居について、本件出国以後においても、当該住居は原告及び原告の家族のため従前どおり維持されていたというべき(※下線筆者)であり、原告も平成13年8月の再来日後はもとより、それ以前においても、原告の家族が出国して家財道具を米国向けに配送する以前には、来日した際には当該住居を自らの住居として利用していたことが認められること、

 

⇒・家族(親族)関係の居住実態

 通常勤務先とで家族の「世話、面倒」について別途取り決めがあるはずだから、それに係る稟議書等々、就業規則に記載されている場合もあり

 

③原告は、本件出国にかかわらず、早晩日本に戻って当該住居で生活することを予定しており、その故に原告は平成13年6月にA校の理事長という要職に就任したものと理解することが自然というべき(※下線筆者)であること、

 

⇒・居住を前提とした将来的行為を慎むこと、これは証拠ではなく、将来事象であるから、「しないこと」「海外在住を前提としているのでそもそも不可能であること」を疎明することになります。

 

 

(注)原本において、「以下に示すような証拠」については、一切ブラックアウト(伏字)されており、本記事では削除しています。

 

******************参考******************

※こちらもあわせてご参照ください。

令和4年10月 国税庁 令和5年1月以後に非居住者である親族について扶養控除等の適用を受ける方へ

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022009-107_01.pdf

 

令和4年10月 国税庁 令和5年1月からの国外居住親族に係る扶養控除等Q&A(源泉所得税関係)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0022009-107_02.pdf

 

 

伊藤 俊一

税理士

 

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