「エグゼクティブほどよく走る」理由に納得感…最新の脳科学で判明した「運動」と「学力」の関係性【脳科学者・茂木健一郎が解説】

「エグゼクティブほどよく走る」理由に納得感…最新の脳科学で判明した「運動」と「学力」の関係性【脳科学者・茂木健一郎が解説】
(画像はイメージです/PIXTA)

エグゼクティブは健康への意識が高く、運動習慣を持っている人が多くいます。しかし、運動には、心身の健康維持だけでなく、脳の活性化という効能があることもわかってきました。脳科学者として活躍する、茂木健一郎氏が解説します。※本記事は、茂木健一郎氏の書籍『運動脳の鍛え方』(リベラル新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

幼少期にスポーツ経験のある子のほうが、自制心や忍耐力が強い

私は早起きです。なぜなら、仕事に出かける前の朝の時間に、家の近所を10キロランニングするという習慣を、もうずいぶん長いこと続けているからです。

 

「なぜ、走るんですか?」

「朝走るって、つらくないですか?」

 

たまに、こんなことを訊かれますが、何しろ小学生の頃からずっと走ってきましたから、ランニングは私にとって、もはや生活の一部となっているのです。

 

とはいっても、私は根っからのスポーツ少年だったわけではありません。むしろ、私が子どものときに熱中していたのは虫捕りでした。

 

虫捕り網を持って、蝶やバッタを必死に追いかける。逃げられればすぐさま、また追いかけていく。これが、私の「走る」原点だったのです。それと、もう一つ。

 

私が子どもの頃というのは、『巨人の星』や『あしたのジョー』といった、いわゆる“スポコン”アニメが流行っていました。

 

こうしたスポコンアニメから受けた影響が大きく、「スポーツを通して自分を乗り越えていく」という運動習慣が身に付いていったのです。

 

いまの子どもたちでいえば、ワールドカップを観てサッカーボールを蹴り出したり、あるいはWBCを観て野球をやってみたり、といった感覚と同じでしょうか。私は『巨人の星』を観ては、主人公である星飛雄馬を気取り、延々と壁に向かってピッチングをしていました。はじめて告白しますが、もし私に野球の才能があれば、プロ野球選手になるのが夢でした(あいにく、その才能はなく、脳科学の道に進みましたが……)。

 

ところで皆さんは、「マシュマロ・テスト」という実験をご存じでしょうか。

 

スタンフォード大学の心理学者、ウォルター・ミシェル氏が、1960年代後半から70年代前半にかけておこなった実験で、子どもが目の前に大好きなマシュマロを置かれたとき、食べるのをがまんできるか、できないかという、自制心や忍耐力の強さと、その後の人生の成功との間に相関があるというものです。

 

私は、このマシュマロ・テストと同じように、幼少期にスポーツ経験のある子どものほうが自制心や忍耐力が強いのではないかと調べたところ、やはりそうしたエビデンスを見つけました。

 

東京成徳大学の夏原隆之助教授と慶応義塾大学の加藤貴昭教授の共同研究で、2015年から2016年にかけて、小学3年生から中学3年生までの1581人を対象に実施した『児童期および青年期の子どもの非認知スキルの発達とスポーツ活動との関連性に関する研究』によると、スポーツ経験のある子どものほうが、スポーツ経験がない子どもよりも、自制心や忍耐力、さらには困難から立ち直る力といった「非認知能力」が高いことが明らかになったのです。やはり、子どものときに運動したり、何かスポーツに挑戦していた子どものほうが、その後の人生で力強く生きられるのですね。

 

先ほど、私は子どもの頃からずっと走ってきたといいましたが、本格的に長距離を走り始めたのはそれからだいぶ経ってからのことです。私が初めてフルマラソンを完走できたのは52歳のときでした(40歳で挑戦した時は、途中から歩いて「完歩」しました)。

 

 それほど誇れるわけではありませんが、いまの私があるのも運動のおかげといっても大げさではなく、このように私は走ることを通して自分の人生を切り拓いてきたのです。

運動はなぜ脳にいいのか? さまざまなエビデンスを紹介

世の中で成功を収めているエグゼクティブたちは、ルームランナーで走っていたり、ジムに通って身体を鍛えている。そんなイメージがありますよね。

 

こうした運動を通じて、心身ともに健康でいることで質の高い仕事をしていることは、もはや疑いの余地はありません。

 

ただ、こうした心身の健康のために走ったり、ジムに通う人は大勢いますが、運動が脳を活性化させるからといって走ったり、ジム通いをするという人はほとんどいないのではないでしょうか。

 

では、具体的に運動はなぜ脳にいいのか。ここからは、さまざまなエビデンスを紹介しながら解説していきます。

 

まずは、運動と学力との関係性についてです。

 

オーストラリアのウェスタンシドニー大学の国立補完医学研究所(NICM)と、イギリスのマンチェスター大学の心理学とメンタルヘルス学部との新たな共同研究によれば、「有酸素運動は記憶力の改善や脳の健康維持、老化防止に役立っている可能性がある」と発表しています。

 

これと同様に、日本の筑波大学がおこなった研究では、ゆっくりしたペースのウォーキングやヨガのような「超低強度運動」を10分間おこなうと、その直後に記憶力が向上することが明らかになりました。

 

運動によって、脳の記憶に関わる部位である「海馬」の活動が活発になり、記憶システム全体が向上することが、最先端の機能的MRIによって実証されたのです。

 

もう一つ、興味深いエビデンスを紹介しましょう。

 

スウェーデンの小さな町にある小学校で、運動と学力との相互関係の研究のために、毎日体育の授業が組み込まれたクラスの学力と、通常通り体育を週2回おこなったクラスの学力とを比較した結果、毎日体育をおこなったクラスのほうが国語・算数・英語において成績が優秀だったことが明らかになりました。さらにこの効果はその後何年も続くことが確認され、男女ともに3教科の成績が飛躍的に上がることが確認されたのです。

 

このように、運動と学力との相関関係が世界各地で科学的に証明されているわけですが、こうしたエビデンスが明らかになったのは近年、脳科学の研究が飛躍的に進んだからにほかなりません。

 

たとえば、皆さんは「BDNF(脳由来神経栄養因子)」という脳内物質をご存じでしょうか。BDNFとは、脳の神経細胞の成長や維持、再生などを促す物質で、記憶中枢である脳の海馬に多く発現するほか、血液中にも存在しています。

 

昔から「文武両道」という言葉がありますが、運動することによってこのBDNFが私たちの記憶力を司っている海馬に行き渡ることで脳が活性化するということが最新の脳科学によって証明されたのです。

 

「運動すれば、成績がアップするのか!?」

 

学生たちであれば、そんな期待を込め、いますぐにでも準備運動を始めているかもしれませんね。たしかに、記憶力が多くの場面で求められる学生たちの勉学では有効です。

 

もちろん、学生に限らずビジネスの現場においても、「最近物覚えが悪いな」と感じている人であれば、運動によって記憶力をアップさせることで多くのメリットがもたらされるはずです。

 

 

茂木 健一郎
理学博士/脳科学者

 

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※本連載は、茂木 健一郎氏の書籍『運動脳の鍛え方』(リベラル新書)より一部を抜粋・再編集したものです。

運動脳の鍛え方

運動脳の鍛え方

茂木 健一郎

リベラル社

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