エネルギー価格の高騰を「外貨準備高」で抑える?…インフレから日本を守るための〈荒技〉とは【エコノミストが解説】

エネルギー価格の高騰を「外貨準備高」で抑える?…インフレから日本を守るための〈荒技〉とは【エコノミストが解説】

22年の1年間で、電気代は約20%も上昇しました。日本ではとくに「エネルギー」と「食品」の値上がりが目立ちますが、物価上昇を税金で肩代わりするのには限界があります。本稿では、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏の著書『インフレ課税と闘う!』(集英社)から一部を抜粋し、インフレ対策、とくに電気代・ガス代引き下げのために考えられる荒技について解説します。

物価上昇を「税金で肩代わり」し続けることはできない

日本を襲うインフレには特徴がある。

 

食料品とエネルギーの二つの値上がりが目立つことだ。2022年6~12月の消費者物価を例にとると、約8割の上昇要因はその二つだ。食料品の寄与度は4~6割、エネルギーの寄与度は2~4割である。

 

石油元売りへの補助金は、ガソリン・軽油・灯油・重油の4油種の値上がりを抑制する。これは、家計消費の8%に相当する。

 

確かに、自家用車を多用する地方ではガソリン消費量は多い。灯油は、北海道・東北・北陸地域で、主に高齢者世帯の消費量が多い。もっとエネルギーで大きいのは、電気代・ガス代である。この二つで家計消費の6.2%のウエイトがある(「家計調査」2022年)。

 

企業にとっても電気代は負担が大きい。政府は、2023年1~9月には電気代・都市ガス代を2割削減する経済対策を実施している。

 

電力会社の懐事情を察すると、2022年は値下げどころか、値上げをこれ以上はできなくなった。仮に、電力会社に値下げを無理強いすれば、経営が赤字で脅かされることになる。

 

もう少し長い目で見ると、電力会社の高コスト化は、2011年の東日本大震災が遠因になっている。

 

原発を止めて、火力発電への依存度を高めてしまったところに、円安が襲ってきた。原子力規制委員会が許可をしても、原発稼働に地元の自治体が反対することも多い。

 

岸田首相は、2022年7月、9基の原発を再稼働する方針を示したが、仮に、全国商業用原発33基がすべて稼働すれば、いくらか高い電気料金の水準は是正される余地が生じてくるのではないか(2023年3月時点の稼働中は7基)。

 

政府は、2022年9月に追加的物価対策(第一弾は2022年4月)を打ち出して、小麦価格を10月に据え置くことを決めた。こちらは、食料品価格の抑制に効果がある。同じ年の4月には、政府が製粉会社に売り渡す小麦価格を一気に17.3%も引き上げた。それが2022年4~9月にパンや麺類、餃子、カレー、調理食品の値上がりに波及した。

 

筆者自身も、輸入物価の動向から、政府の小麦の売渡価格を推測してみた。すると、2022年4月には3割以上の値上がりになる計算だった。だから、4月に政府が小麦の売渡価格を17.3%の値上げに止めたことは、物価高騰への配慮が感じられる。

 

その後、2022年10月は売渡価格を据え置き、2023年4月は5.8%と、人為的な押し下げを継続している。もっとも、石油元売りや政府買入小麦への税金投入は、投入資金が膨らむので、いつまでも継続できない性質のものだ。物価上昇を税金で肩代わりすることは、その分、隠れた財政負担が大きくなり、永久には続けられなくなるというジレンマが生じる。

 

エネルギーと食糧のコスト増は、輸入インフレのせいである。GDP統計に基づいて、2022年の輸入デフレーターがどのくらい対前年比で増えたのかを計算すると、プラス11.8兆円であった。

 

日本全体で考えると、このプラス11.8兆円が川上から川中、川下へと価格転嫁される。

 

原材料を輸入する企業から、材料を加工する製造業、卸売・小売、そして、最終的にそれを購入する消費者が、価格の上乗せを受け入れることになる。

 

次ページ電気・ガス料金を引き下げる「荒技」
インフレ課税と闘う!

インフレ課税と闘う!

熊野 英生

集英社

コロナ禍やウクライナ戦争を経て、世界経済の循環は滞り、エネルギー価格などが高騰した結果、世界中でインフレが日常化している。これからは、「物価は上昇するもの」というインフレ前提で、家計をやりくりし、財産も守ってい…

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