(※写真はイメージです/PIXTA)

東京2020オリンピック以降、全国各地で塩漬けになっていた都市計画事業や再開発事業が動き出し、東京都内の鉄道網においても地下鉄半蔵門線や南北線の延伸情報が飛び交うなど、都市整備の機運が高まっている。それにもかかわらず、湾岸部に建つタワマン周辺の交通インフラは未だバス便頼りの状況が続いている。「成功者の砦」とも称されるタワマンライフの背景には地味にツラい「地方都市並みの不便さ」があった。不動産会社のベテラン営業マンに実情を聞いた。

「えっ、どこの田舎?」タワマン前のバス停に、謎の大行列

先日、異様な光景を目にした。都内・湾岸エリアに建つ某タワマン前のバス停に、タワマン住民と思しき人たちが長蛇の列をつくっているのだ。ここは路線バス車庫前にある始発停で、麻布十番・六本木方面への直通便を利用することができる。商業エリアへ乗り換えなしで行けるのは確かに便利だが、都会のど真ん中でなぜ行列をつくってまでバスを待たなければならないのか。

 

このタワマンは3駅5路線の鉄道が利用できるという利便性に長けた立地にある。しかしながら、それぞれの最寄り駅へは「徒歩10分以上」かかってしまう。そのため、目の前のバス便を利用した方が断然ラクなのだ。

 

タワマンは「成功者の砦」であり、そこにあるのは「何不自由ない暮らし」のはず。そのイメージとは裏腹のストレスフルなバス待ち行列…。これでは地方都市の駅前のようではないか。思わず「どこの田舎だ…」とつぶやいてしまう。

 

一部のマンションディベロッパーは、

 

「富裕層は路線バスなど乗らないので、分譲マンション広告にバス路線情報の掲載は不要」

 

と考えている。富裕層は自家用車を使うので、「敷地内駐車場100%(全戸各1台分の駐車場を確保)」を謳えばよいという。しかし、これは総戸数の少ない低層マンションの話だ。

 

タワマンを含め、都心に建つマンションは駐車スペースが限られる。駐車場確保の抽選倍率も高く、運よく当選したとしても、都内の移動で日常的に自家用車を使うのは効率が悪い。結果的に、都心のマンション住民は公共交通機関に頼るしかなくなる。そして鉄道駅が遠ければ、バス便を利用するしかない。

地下鉄延伸に取り残される湾岸エリア

中央区に長く住む不動産精通者に近隣のタワマン事情を聞いた。

 

「佃、晴海、豊海など、タワマンが林立している湾岸エリアは工場跡地の再開発でできた街が多く、地下鉄路線が伸びていないところが多い。有楽町線や大江戸線はやっと通ったものの、駅まで歩いて20分くらいかかってしまう物件もざらなのでは?」

 

築20年越えの大御所タワマンが建つ佃島は重工業系工場の跡地、大型ショッピングモールに併設したタワマンなど複数物件がひしめく豊洲は造船工場、ガス関連工場、火力発電所の跡地、広い敷地に分譲2棟・賃貸2棟の合計4棟のタワマンがそびえる芝浦は製糖工場の跡地…と、確かに大規模工場などの跡地利用が多い。

 

そもそも埋立地であることや、特定の工場関係者が行き来するだけの場所ということで、公共交通機関の整備が後回しにされていたきらいもある。

 

大江戸線・勝どき駅や有楽町線・豊洲駅が徒歩圏にあるタワマンならいくらかましと思いきや、朝晩のエキナカラッシュは殺人的だ。

 

なぜなら、勝どきの乗降者数は練馬・門前仲町・六本木を抑えて大江戸線内で3位、豊洲は東京メトロ全線内で新橋・上野・東京・渋谷より上位の6位に位置する。

 

[図表]大江戸線の一日平均乗降客数

 

2駅とも出入口やホームを増設する大規模改良工事が進められているが、新規マンション開発に伴う利用者増とイタチごっこの状況だ。

 

豊洲のタワマンに住む知人によると、

 

「東京駅に行くなら地下鉄は使わない。有楽町線を使うと銀座一丁目(銀座)で乗り換えが必要だし、新木場経由で京葉線乗換という方法もあるが遠回りしている印象がある。いずれにしても途中下車して歩くのが面倒。路線バスなら乗り換えなしで八重洲口まで運んでくれるので便利」

 

といい、このような理由から、多くのタワマン住民は路線バスを積極的に利用するようになったようだ。

新規バス路線開業を誘導する行政サイド

地下鉄整備が十分でない湾岸エリアの交通網を新たなバス路線でカバーしようという動きがあることをご存知だろうか。それが以下に紹介する「東京BRT」と「東京ひとめぐりバス」だ。

 

[東京BRT]

 

乗車料金:大人220円、小児110円

 

運営会社:京成バス(千葉県市川市)、東京BRT(千葉県市川市)

 

ルート1:虎ノ門ヒルズ―新橋―勝どきBRT―豊洲市場―有明テニスの森―国際展示場―東京テレポート

 

ルート2:虎ノ門ヒルズ―新橋―勝どきBRT―晴海中央―晴海BRTターミナル―豊洲―ミチノテラス豊洲(豊洲市場前)

 

ルート3:新橋―勝どきBRT

 

東京ひとめぐりバス(TOKYO LOOP)

 

乗車料金:大人200円、小児100円

 

運営会社:なの花交通バス(千葉県佐倉市)、みちのりホールディングス(東京都千代田区)

 

ルート:ダイバーシティ東京プラザ-晴海3丁目-東京京橋-コレド室町-コレド日本橋-ア―バンドックららぽーと豊洲

 

※ 2023年9月から1年間、土・日・祝日中心の運行。

 

運営会社はいずれも「都心部と湾岸エリアを結ぶ交通網の軟弱さ」を指摘し、その課題を解消するために新規路線をスタートさせたとしている。民間のバス会社の課題提起によって運行が実現されたように見えるが、路線バスの運行営業開始には当然運輸局の許可が必要になるため、行政側も「交通軟弱点はバス便でカバーするも止む無し」と認めたということか。

 

これでは地下鉄延伸の期待がさらに薄くなる。陸の孤島に住むタワマン住民は、当面の間路線バスにすがるしかなさそうだ。

このまま「陸の孤島」と化してしまうのか…

タワマンライフには、そこに住む人にしかわからない「交通便の悪さ」が潜んでいる。

 

購入時は「駅徒歩圏」と説明されながらも、暮らしてみると駅は遠く、目の前のバス便にすがるしかないのが実情だ。もともと埋め立ての工業地域であったため鉄道整備計画もなく、バス便ばかりが増発される。

 

このまま「陸の孤島」と化してしまうのか、湾岸タワマンの行く末が案じられる。

 

 

 

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