当事者が「姉妹だけ」の相続トラブルの場合、しばしば特有の傾向がみられます。その多くは、姉妹の「配偶者の経済格差」です。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が解説します。

姉妹の相続争いに影を落とす「配偶者の経済格差」

相続問題に直面する方の多くは中高年ですが、現状においては「バブル世代」の方々該当します。現在、相続の現場において「バブル世代の姉妹間」に、しばしば熾烈な相続トラブルが起きている現状があります。

 

バブル時代は、日本経済に勢いがあり社会が活気づく一方で、女性の場合、自ら社会での活躍を目指す人は多くなく、数年は社会人経験を積んでも、その後は家庭に入るというルートを選ぶ人が多数派でした。このことから、女性はなお昭和の価値観をもって生きる人が多かったと推察されます。

 

誤解を恐れずにいうなら、若い時代は「親ガチャ」が、結婚後は「夫ガチャ」が生活レベルを確定していた時代でした。もちろん、配偶者が人生に関与する影響は男女にかかわらず大きいですが、当時はまだ、現在よりも離婚のハードルが高かったことから、女性にとって配偶者の選択が人生に及ぼす影響は今以上だったと思われます。

 

ふりかえって、現在の相続の現場から考えると、「姉妹で均等に」という亡親の提案を受け入れらない背景に、しばしば姉妹間の配偶者による経済格差がみられます。

シングルマザーの姉、裕福な専業主婦の妹

ある60代の姉妹の相続トラブル事例です。2人が学生のころはバブル真っ盛り、姉妹はそれぞれ大学を卒業し、大手企業に就職。社内で結婚相手を見つけて結婚退職しました。

 

姉妹とも、結婚後すぐ子どもを授かるなど順風満帆に見えましたが、それから10年。長女の夫は不況のあおりを受け、リストラされてしまいました。再就職したものの給料は大きく下がり、住宅ローンの返済が滞ったことで自宅も売却し、私立に通っていた子どもたちも公立に転校します。長らく専業主婦だった長女は、慣れないパートで四苦八苦するうち、家庭不和になり、とうとう離婚に至ります。小学生を2人連れて実家に戻り、高齢の両親に頼りながら、パートを掛け持ちして働いていました。

 

一方の二女は、夫が順調に出世。裕福な夫の実家から援助もあり、都内に広い一軒家を購入しています。子どもたちも有名大学へ内部進学し、その後は大手企業に就職しています。夫婦仲もよく、家庭円満です。

 

姉妹が50代後半に差し掛かったとき、父親に深刻な病気が判明し、医師から余命宣告を受けてしまいました。

 

父親は、入院先の病室に姉妹とその母親を呼び、遺産分割について自分の考えを話しました。

 

「自宅と貯金の半分は、お母さんに。貯金の残りは2人で半分ずつ。いずれお母さんがお父さんのところに来たときは、自宅を売って2人で分けなさい。いいね?」

 

父親の言葉に母親は泣き崩れましたが、それをよそに姉が叫びました。

 

「じゃあ私、お母さんが死んだら住む場所がなくなっちゃうじゃない!」

 

妹は、姉の腕をつかみ、小声ながらはっきりといいました。

 

「お父さんの前でなんてこというの!」

 

すると姉は、妹の手を振り払って叫びました。

 

「あんたはいいわよ! ご主人も立派で、お金もあって。私がどれだけ大変な思いをしたと思ってるの!?」

 

妹も姉に言葉を返しました。

 

「そんな相手を選んだ自分の責任でしょ!」

 

大声で泣く姉を見ていた父親は、力なくいいました。

 

「そうか…。じゃあ、家はお姉ちゃんに残さないとな…」

 

「そんなの不公平じゃない!」

 

激しく泣き崩れる母親をよそに、今度は妹が大声を上げました。

 

その後、父親は遺言を残さず亡くなり、半年後、母親も後を追うように亡くなりました。現在、姉妹は遺産を巡って係争中です。

仕事も家庭も充実の姉、借金ありの男性と暮らす妹

別の50代の姉妹の事例です。有名大学を卒業した姉は大手企業に入社し、30代で結婚。同じ会社に勤める夫との間に子どもが1人います。

 

妹は大学卒業後すぐ、学生時代の交際相手と結婚。30代半ばまで専業主婦でしたが、夫からの経済DV等が原因で離婚してしまいます。その後は派遣社員やパート勤務をしながら、経済的にかなり厳しい生活を送っています。

 

妹の生活が厳しいのは、もうひとつ理由がありました。現在同棲している男性がいるのですが、この相手は定職についていないうえ、事業の失敗で多額の借金を抱えているのです。

 

姉妹はいずれも横浜市在住ですが、実家は埼玉県です。数年前に母親が亡くなり、その後父親が亡くなりました。資産家ではありませんが、一般的なサリーマン家庭で、戸建ての自宅と1000万円程度の現預金が遺産として残されています。

 

姉は遺産を現金化して半分に分けることを提案しましたが、妹が納得せず、事態は宙に浮いたままです。筆者の相談者である姉は、「妹が大変なのはわかっています。ですが、財産を多く渡したところで、どうせあの男に使われるに決まっています。真面目な父が家族のためにコツコツ築いた財産なのに、そんな使われ方をするのは悔しい。本当は半分だって渡したくないのです」と本音を漏らしていました。

 

姉妹関係は子ども時代からよくなかったといいます。姉は厳しくされた一方、妹は自由奔放にふるまうことが許され、腹立たしかったそうです。

 

「あの子のいまの状況も、自分のせいですよ。せめて自分が食べるに困らないくらい、仕事を頑張ればよかったのに」

 

この姉妹は裁判になりましたが、当初の姉の希望通り、ほぼ半々に遺産分割することで早期に和解・決着しました。妹には親の介護その他といった、寄与分に該当するような行動がなく、自身も弁護士を立てて戦ったところで多くもらえる可能性が低いこと、そもそも弁護士費用を捻出し続けるだけの資金力がなかったことが理由です。

 

ただ姉は、妹の一連の行動にいたく立腹しており、最後には「今後一切、双方と関わりを持たない」という文面に署名させました。

 

法的に意味のある文書ではありませんが、そこまでしないと気持ちが収まらないほど、溝は深まっていたのだといえます。

 

親や兄弟姉妹から受けてきた対応に、成人後もあれこれ思っている人もいるのではないでしょうか。しかし、相続時にトラブルを起こしても、なにも得することはありません。特別に親密である必要はありませんが、ミュニケーションが取れる程度の関係を維持していた方が、ストレスも少なく、メリットも大きいでしょう。

 

円満な相続を実現するためにも、両親の生前から家族間で話し合う機会を持っておく、親も兄弟姉妹の関係をよく見たうえで、配慮した内容の遺言書を残しておくなど、後悔の残らない対策をとることを、強くお勧めします。

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

 

山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦

 

 

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