深刻化する〈家賃滞納〉の問題、賃料5万円のアパートは「強制執行」の出費がイタ過ぎて…物件オーナーも撃沈【弁護士が解説】

深刻化する〈家賃滞納〉の問題、賃料5万円のアパートは「強制執行」の出費がイタ過ぎて…物件オーナーも撃沈【弁護士が解説】

賃貸アパートのオーナー、収益物件を相続した方のなかには「家賃滞納」の問題に悩む方が少なくありません。法的効力で強制的に追い出すことは可能ですが、それによりオーナー側が多大な金銭的損失を被るなど、対応は簡単ではありません。不動産と相続を専門に取り扱う、不動産・相続問題に強い山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

問題解決を困難にする「安すぎる賃料設定」

収益不動産のトラブルで目立って多いのが、借主による「家賃滞納」問題です。近年では、親が所有する古い収益物件を相続後にこの問題に直面し、対応に苦慮する方もいらっしゃいます。

 

収益物件オーナーの方はご存じのとおり、強制退去を求められるのは「最低賃料の未払い3ヵ月以上」です。しかし、もし4ヵ月目に家賃を持参されるなどし、貸主がうっかりそれを受け取ってしまうと、法的には「まだ信頼関係が存在する」と判断され、退去を求められる期間が延びてしまいます。

 

実際のところ、法的には「借りている側」が圧倒的に守られており、3ヵ月から半年にわたる家賃不払いがなければ、退去してもらうのは難しいのです。

 

家賃滞納トラブルは、オフィステナントや高級マンションではなく、圧倒的に、賃料5万~8万円程度のアパート、マンション、駐車場で多く発生しています。

 

そして、家賃滞納の問題解決を難しくしているのが、この「賃料の低さ」です。1件当たりの賃料自体は少額でも、滞納している借主がいる限り新しい入居者等を入れられず、かといって、出てもらうために法的措置を取れば、トータルで見た場合、弁護士費用や裁判所への申し立て費用のほうが、ずっと高額になってしまいます。

 

仮に、家賃月5万円、年間60万円の部屋に対して退去の裁判をするとしましょう。最も費用の安い弁護士事務所に依頼しても、着手金報酬金など含めて最低でも50万円は必要です。そこから交渉し、無理なら裁判をし、それで退去しない入居者は強制執行となります。

 

強制執行になると、別途弁護士費用が20万~30万円程度必要です。そして、裁判所に室内の荷物を搬出してもらう手続きも必要になります。裁判所の執行官立会いのもと、「正式に出て行ってもらう」という手続きになるため、裁判所側に払うお金も必要になるのです。

 

理屈の上では、「入居者のせいで被った損害」という名目で、強制執行手続き費用や未払賃料は相手に損害賠償請求できるのですが、では、家賃を滞納する人がきちんと払うのか(払えるのか)、という問題があります。そもそも資金がないわけですから、「絵に描いた餅」状態の債権が残るにすぎません。

 

結局オーナー側は、弁護士費用から執行費用まで、トータルで少なくとも100万~200万円ぐらいのお金がかかってしまいます。

オーナーの利益を「最大限確保する方法」を選ぶしかない

この点からもわかるように、いくら強気で取り立てたところで、オーナー側が確実に損失を回収できるわけではありません。そのため、交渉や申し立てによって出ていく費用を勘案したうえで、どのような対応が実利につながるのか、よく考える必要があるのです。

 

したがって、弁護士サイドも「オーナー側の収益を最大限確保するにはどうするべきか」といった観点から、対応策を取ることになります。

 

筆者の場合は、小額な家賃のアパートやマンションの滞納について相談を受けた時点で、「弁護士の費用を払うより、それを相手に渡して出て行ってもらってください」と、はっきり申し上げることも少なくありません。

 

仮に強制執行費用として、弁護士に30万円を支払って依頼したとしても、その後はまた、執行費用等々の費用が発生します。また、弁護士を入れて交渉したとしても、今日明日すぐに問題解決できるわけではありません。「ですから、弁護士費用を相手に差し上げるぐらいの気持ちで交渉してください」と筆者は実際に申し上げています。それが相談者の方にとって、いちばんのメリットになるからです。

交渉難航、暴力のリスク…弁護士が介入すべきケースも

なかには、どうしても相手と折り合えないケース、また、過剰請求してくるといったケースもあります。そして、話し合い自体ができない頑なな入居者や、暴力的な対応を辞さない入居者もいたりします。そのような場合は、弁護士が間に入って交渉することになります。

 

以前筆者が受けた家賃滞納の依頼です。アパートオーナーが高齢で、「問題入居者」と交渉をさせるのが不安だと心配したご親族からの相談が発端でした。上述したとおり、裁判すれば出て行ってもらうことは可能ですが、多額の裁判費用や執行費用がかかるのは明確です。そこから逆算すると、入居者にお金を渡して出て行ってもらったほうが、経済効率性は高いのです。

 

そのため、「盗人に追い銭のようで腹は立つかもしれませんが、お金を渡して出て行ってもらいましょう」とお伝えし、それに即した方針を立てました。結果、相手と和解に至り、最後は筆者が退去の場に立ち会って終了となりました。

穏当な解決策で「将来的な利益」を守る

テレビドラマや映画では、問題入居者を強制的に…といった、アクションさながらのシーンを見ることもありますが、現実的なものではありません。実際問題、オーナーのメリットが高い方法を選ぶなら、そのような展開にはならないからです。

 

オーナー側の金銭的・時間的損失の抑制、また、現在から未来におけるトラブルの回避・リスク軽減といった観点からも、交渉はできる限り穏当に運ぶことが重要です。ちなみに、筆者は不動産問題を専門に扱っていますが、この記事の執筆時点では、幸いなことに強制執行手続きに至る前に解決した事案ばかりです。

 

家賃滞納の問題の延長線上に、もうひとつ「建て替え時の立ち退き」という問題もあります。古いアパートやマンションを建て替える際、1世帯だけ退去を渋って…といったケースです。

 

これも、家賃を滞納する入居者に退去してもらうのと同様、相手にお金を払う方法が第一選択肢になります。ただ、弁護士目線と管理会社目線では、相場とする金額に違いがあるのは確かです。管理会社の場合は、3ヵ月~6ヵ月の賃料プラス引っ越し代というのがひとつの目安ですが、弁護士が提案するのは2年分の賃料プラス引っ越し代と、かなり開きがあります。

 

賃貸物件オーナーの方からはこの手の相談はかなり多く受けていますが、やはり「弁護士費用を払うより、それを入居者に支払った方が…」というアドバイスで終わることも、現実には少なくありません。

 

 

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

 

山村法律事務所

代表弁護士 山村暢彦

 

不動産法務、相続税の税務調査…
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